いつか私が人間だった頃

 

佐々木 眞

 
 

いつか私が鳥だった頃、私は瑠璃色の翼で覆われたルリビタキだったが、
赤いモミジの葉っぱをついばんでいる間に、飢えた台湾リスに食べられてしまった。

いつか私が魚だった頃、私はウナサブロウという名の天然ウナギだった。
ある日滑川の巣で昼寝をしているところを、川遊びをする子供たちの網に飛び込んだために、校長先生のまな板でかば焼きにされてしまった。

いつか私が植物だった頃、私は鎌倉市の市花で崖に咲く絶滅寸前のリンドウだったが、近所のタカギさんの電動芝刈り機で、あっという間に他の草花と一緒にチョン切られてしまった。

いつか私が動物だった頃、私はメリー洋装店のジョンという名の犬だったが、綾部保健所の凶暴な犬捕りに捕まって、ワンという暇も与えられず、締め殺されてしまった。

いつか私が人間だった頃、四季は温暖に巡り、花々は愁わしく香り、人々は私に優しかった。

ところがある日私は、脇道から突然出現した自動車に撥ねられて空高く跳び上がり、くるりと一回転して、地べたに叩きつけられた。

救急車で病院に担ぎ込まれ、九死に一生を得た私だったが、月命日の母が天上から手を差し伸べてくれたのだった。

それから私は、タンポポの好きな美少女に恋して、2人の愛らしい子供に恵まれ、蓮の葉っぱの上の小さなおうちに住んで、いついつまでも仲良く暮らしたことでした………

 

 

 

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