夢は第2の人生である 第2回

 

佐々木 眞

 

西暦2013年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

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オフィスではいつも課長と私と部下の3人が同じところに並んでいたのに、ふと気がつくと上司がいない。あたりをきょろきょろ探すと、遥か彼方にたった一人で座っていた。

 

球場では難民救済のためのイベントが行われていた。遠くから小さな箱に向かって阪神のバース選手と札幌芸大の吉田君がボールを投げる。狭いスポットにうまく入れば大成功というわけだが、わたしにはその勇気がなかった。

 

荒波が打ち寄せる真っ暗な洞窟に降りて行くと、そこでは大勢の若い男女がお面をかぶって乱れ騒いでいた。誰かが私を手招いている。

 

私はロシアのスホイ戦闘機を4機抑留した。なぜか、どのようにしてかは、自分でも全然分からないのだが……。その結果わが国に亡命することに決めたパイロットたちを、私は大阪の寄席に連れて行った。

 

空からぐんと突き出している険しい階段を上っていくと「森本主義者」と書いた哲学者の家があった。どうやら2人の年老いたインテリゲンちゃんが住んでいるらしい。

 

そのうちの白い髭をはやしたおじいさんが、「これが入場券だよ。好きなのを取りな」と言って差し出した白い布の上には、赤、青、翠、黄色などで彩られた美しい鼈甲のような飾りが乗せられていた。

 

ようやく戦争が終わったので、私は氷結したランチを解凍してもらったのだが、その中から見知らぬ男の死体が出てきたので、ギャッと驚いた。

 

懐かしい山紫水明の故郷のはずなのに、それはどこかが根本的に変わってしまったようだった。しかし相変わらず渓流には清らかな水が走り、森や原っぱにはさまざまな花が咲いていた。

 

草原の1本道をずんずん進んで行くと、巨大な白いハスの花にとまった白いゴマダラチョウが、大きな翅をゆらゆらさせていた。

 

私は会社員で、ある製品の企画会議に出席していた。黒板には誰が書いたのか「アメリカン・ファンタジー」という英語が大書してある。あまりにも下らない会議なので「忘れ物を取って来ます」と言っていったん帰宅してから出直すと、もう電車がなかった。

 

さてどうしようか、家に帰ろうか、それとも歩いてでも会社に行こうかと駅前で考えこんでいると、暗闇の中でギラリと光る眼があった。ハアハアと喘ぎながら涎を垂らしている狼犬の口は毒々しい赤だった。

 

私の仕事に脇からイチャモンをつける上司。これは間違いなくパワハラだ。そこで私が「これはおいらの仕事だ。お前さんは大人しく引っ込んでろ!」と怒鳴ったら、その声で目が覚めてしまった。

 

若く美しい女をベッドの上に押し倒すと、にわかに欲情が湧きおこって来たので、おもむろに伝家の宝刀を抜こうとしたが、見つからない。必死で探していると、なんとダリの「記憶の固執」の柔らかい時計の隣にぶら下がっていた。

 

オペラハウスのバルコニーの隣の席に、工藤さんが椿姫のヴィオレッタのような衣装でちらと顔をのぞかせた。「あら貴方、お元気だったの?」と工藤さんが尋ねたので、私は懐かしくなって「君こそ元気なの?」と尋ねたら、彼女は「生きてしあればと」いうアリアを小さな声で歌うのだった。

 

自分でもそれと知らないうちに、私は探偵オペラに出ていたらしい。第1幕と第2幕では女性が主人公であったが、突如「三一致の法則」やそれまでの正常な展開が否定され、ちょうどベートーヴェンの「第九」の歌いだしのような形で、私が進み出るのだった。

 

「こういう短歌を詠むといいわよ」という人がいて、ああそうかなあと思いつつ一晩中考えていたが、けっきょく完成しなかった。その中身は私が丹精込めて世話したカエルの産卵の話なのだが、さてどうしたものかなあ。

 

貧乏な私は、当時ある上司と部屋をシェアしていた。その部屋の壁面は床から天井まですべて無数のノートブックで埋め尽くされており、他の壁面も数多の文庫本によってことごとく埋め尽くされていた。

 

外出から帰った私が、このアパートのトイレに駆け込んで用を足そうとしていたら、もう一人の別の今中という名の上司が、無理矢理オマルに跨って用を足そうとする。文句を言おうとしたが、彼も下痢のようだ。結局私たちは1つの便器をお尻合わせで使用した。

 

私は北海道の新聞社に入社した。先輩が歓迎会をしてくれるというので、一緒に会場に向かおうとしていたのだが、駅で電車を待っている間に見失ってしまった。仕方なく帰宅しようとしたら、北嶋氏から携帯に電話が入り、駅の反対側の居酒屋で待っているという。

 

あたしはフランソワ。きょう学校で校長先生から3万フランもらった。学校の評価基準が変わり、出席・成積・体育のほかに徳育という項目がつけ加わり、あたしのママが死んだ友人のお墓に毎月お花を捧げてお祈りしていることが分かったからだって。

 

あたしはフランソワ。毎日登校すると、入り口で体を横向きにして懸垂しながら腕の力だけでよじ登り、門番が居る部屋に入ろうとするのだけど、いつも失敗する。すると門番が飛んできて、あたしの体を下から抱きかかえて入れてくれるの。

 

あたしはフランソワ。きのう友達の男の子5人がパルチザンに志願して銃を持って学校から出て行った。今朝登校してから窓を開けたら、真っ白いアルプスの山のいろんな所に5つの黒い点が動いていたわ。

 

突然「すぐに来てほしい」という電話が泣き声混じりでかかってきて、しかたなくその部屋を訪れると、私の全身が白い芙蓉のような顔の下にある2つの深紅の小さな穴の中にどんどん引きずり込まれていき、またしても取り返しがつかない事態が引き起こされるのだった。

 

「ほんとうに私がいちばん好きなの」と女が訊ねる。「私よりもあの女が好きなんでしょう、もうあの女と寝たんでしょう」と、なおも追及してくる。ああいやだいやだ、これだからいやなんだと、私は夢が早く覚めてくれることを願った。

 

こんな半島の南端にもスタジオがあるのだった。そこではサーファーの若者を主役にしたコマーシャルが撮影中だった。今ふうのきざなディレクターが「よおし、君ここでOK!ボッケイ!と叫んでくれ」と注文するのを、私はうんざりしながら傍観していた。

 

私が懸命に秘匿していた資料や物件がどんどん明るみに出て、周囲の疑惑が一身に集まって来たので、私は潔くすべてを告白して罪をつぐなうことに決めた。

 

うざったい女どもが、私の邪魔をする。堪忍袋の緒が切れた私は、まず右手の拳銃で右側の女たちを殺しはじめたが、今度は左側の女たちが逃げ出し始めたので、左手で別の拳銃を取り出してバンンバン撃ち始めた。これでいいのら。

 

私はその日に生涯最後の時を迎えた北の王グスタフだった。忠臣どもに遺訓を残らず伝え寝台に美姫を招き、膝に乗せて事に及ぼうとした途端、私はプロレスのセコンドとなって、デブでダメなポンコツレスラーのアドバイスに声をからしていた。「いいか、ゴングが鳴ったらいきなりキンタマキック3連発だ。そうすりゃやあいつも参るだろう。おいお前、聴いているのか!」

 

「ああそうなの、じゃああなたの名前で私がサインすれば、いくらでも交際費が使えるってわけね」と見覚えの無い女がほざいた。

「るせえ、もうもう」と喚きながら私が拳銃をぶっぱなすと、朱に染まって父が斃れた。返す刀で弟にもぶっ放すと、倒れながら彼の父親譲りの牛のように大きな紅い瞳がかすかに頬笑んだように見えた。

 

真夜中に「きゃああ!」という絶叫が聞こえた。女か子供か、はた魔女か?

 

私の教団には「一の山」と「二の山」があって、私は一日おきにそれらを訪問し、宿泊していた。夜になるとその山の宿舎には謎の女が忍び込んでくるのだった。

 

昼と夜の間の境目にはまりこんだ私は、いまが夜なのか昼なのかを考えようとしたが、その考え自体が昼間のものだか夜のものなのか分からなくなってしまった。

 

ピアノの上に女を乗せて膝を割ると、女とピアノが大小高下さまざまな音を鳴らしはじめたので、これはまるでジョン・ケージの音楽のようだと私は思った。

 

清らかな水が流れ、桃の花があちこちで咲いているその里では、上の句や歌に下の句や歌を付けるとただで食事が出できたり、出来栄えによっては無料で旅館に泊めてくれるのだった。

 

会社に「女帝」が乗り込んできたために、今までのように自由にタクシーを使えなくなった。しかし私は最寄りの駅までは10分も歩かねばならない。地下鉄に乗ろうと急いでいると部下の女性が誰かと脇道で接吻していたので驚いたが、放置して通り過ぎた。

 

私は地方の王に仕える書記官として、その一族の事績を細大漏らさずパソコンに登録し記録に残しておかねばならなかった。しかし日々次々に起こる行事や事件をどのような書式で記録するべきかについて頭を痛め、いまだにその形式を見いだせずにいた。

 

通勤中のリーマンたちを背後から急襲したのは、国家警察だった。彼らは必死に逃げる私たちを大通りの向こうの広い公園に追い込んだ。公園は頑丈なロープで区画され、私たちは現行天皇制や憲法などへの賛否別に分かたれたブースへ閉じ込められた。

 

 

 

 

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