自己主張の強いインドの人たち

辻 和人

 

 

*この詩は、結婚情報サービスで婚活していた時の様子を書いたものです。
ネットに登録してメールのやり取りをして、気があったら会うというシステムです。
今回、感じの良い相手と知り合えたような……。

「プロフィールを拝見し、素敵な人柄を感じてご連絡させていただきました。
私も音楽や美術などアート系、とても好きです。
いろいろお話させていただけるとうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。」
なんてメッセージもらっちゃったよ

自己紹介欄に
「アートが好きなインドア派です」って書いたんだけど
「俺はアウトドア派」と胸を張る男子が多い中
裏をかく作戦が功を奏したってこと
あったま、いーだろ?
メッセージをくれたその人のプロフィールを早速覗いてみると
今まで真面目に働いてきました
ってな顔がそこにあった

長くも短くもない髪をまっすぐおろして
目はちょっと細くて、ちょっと八の字眉
濃い顔立ちじゃないから、パッと見、地味な印象だけど
おい、この細い目
キッとしてて強い光を隠してるじゃんか
水色の上着含めて、全体として、ひたすら清潔
タレントさんみたいなメイクしたり
頬杖ついて憂い顔でポーズ、という凝ったプロフィール写真もある中
このさっぱり感は貴重かも

名前は美弥子さん
年齢は40歳
旅行や料理が好き
仕事も好きなので結婚後も勤め続けたい
人と接する時は笑顔と思いやりを忘れないようしたい
……ふんふん、優等生的、だけど
「勤め続けたい」
いいね、いいね

今回の方針としましては
額が多くても少なくても
お金稼いで自立している人がいい、ということになっております
ぼくも、今はテキトーにしかやってない家事を
結婚したらしっかりやろうと思ってんだ
女と男とでね
仕事に垣根を作らないでね
一緒に頑張るのがいいよね

「休日は何をされてるんですか?」
「お料理をよくされるようですが、得意なものは何ですか?」
「お勤め先はどこですか?」

新しい相手とのメールのやり取りの楽しみはこれだよなあ
互いの「イロハ」を交換すること

「一年半程前からヨガにはまってます。」
「比較的上手に作れるのは和食一般、ハンバーグ等洋食など、いわゆる家庭料理です。」
「大学の事務局に勤めてます。先生方や他の大学の担当者とのやり取りが多いです。」
へぇ、それで、それで?

質問も平凡、答えも平凡
だけどメールの向こうにいる相手が
少しずつ
少しずつ
生身の姿を見せてくれてるのがスリリング
へぇー、生身のヨガ
ほぉーっ、生身の和食
ははぁ、生身の大学事務局
動いて、実在してるんだよなあ
その先に生身の美弥子さんがいるんだなあ

メールを出すとすぐ丁寧な言葉で返事が返ってくるので
ついつい
詩を書いていることなんか打ち明けちゃったよ
どんな詩書いてるんですかって聞かれたから
「不条理マンガみたいなテイストです」と答えたら
「ぜひ一度読ませていただきたいです(笑)」だってさ
(笑)って何だよ(笑)

詩を書いてます、なんて
会社の人にもあんまり言ってないのに
顔を合わせたこともないこの人にはなぜかすらすら教えてしまう
メールの影からチラッチラッ
だけど全身が見えない
その隠れた生身の部分を、ヨッコラショ
引っ張り出したくってさ

楽しいメールのやり取りの中、ちょっとしたトピックスが!
(長くなるけど引用します)

「今度、大学の先生のお供でインドに出張することになりました。
いろんな人に言われるのは、お腹をこわすということと、
タクシーでぼられるということです(笑)。
インド体験記も是非聞いて下さい。」
「こんばんは。今日はインドからです(笑)。
2大学の訪問を終え、明日明後日と2日がかりで帰国します。
やっぱりインドは日本とは別世界でした。いろいろ刺激を受けました。」
「こんばんは。無事帰国しました。
観光は最後の日に半日位乗り継ぎで時間が空いたのでそこで少しできました。
驚いたことはいろいろあるのですが、
まずは車が常にクラクションを鳴らしていて、本当にうるさいということです。
人も多いし、ダイナミックとも言えますね(笑)。」
「自己主張が強くて他人に対して余り遠慮しない、というのは、
私が驚いたことの多くをまとめてくださっています(笑)。
民族も言語も大変多様で日本のように同質性が高くないし、
無理に同調するというのは全然ないようですね。
日本とインド、どちらがいいということではないんだと思いますが。」
「はい、確かにインドは魅力的な国です。
行きたい国の一つだったので、仕事とはいえ行けてよかったです。
今度はプライベートで行きたいです。ただトイレは…(涙)。
大学は、街で感じたほどの違いはなかったです。多少のんびりしているかな、スタッフが多く余裕があるなという印象を受けました。」

(引用、終わり)

面白いお話だったです、そうそう、一度お会いしませんか?と
メールを送り
PCの電源を落とした……ん?

クラクションが聞こえてくる
ピェーピェー、ブップゥプェゥー
危険を知らせたいからじゃない
鳴らしたい気持ちを
一時でも我慢できないんだ
ピェーピェー
生身で息をしてるなら
ブップゥブップゥブップェゥー
主張しなきゃだな
浅黒い肌、濃い顔立ちのインド人の男は車を止め
窓からひょいと顔を出し
美弥子さんにニカッと笑いかける
色白で薄い顔の美弥子さんも
ニコッと笑い返して道路を渡る
無理に同調してるのではないよ
自己主張には自己主張で返す
それでいて互いの間に垣根を作らないで一緒に頑張る
ピェープゥー
そんなのがいいね
そうなるのかなあ

 

 

 

自己主張の強いインドの人たち」への2件のフィードバック

    • ありがとうございます。メールのやりとりの先に「生」があるんだということに、ドキドキしていました。

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