letter

 

小関千恵

 
 

わたしをおぶった母が身を投げまいと立ちすくんでいた駅のホームに
何度目だろうか
立っている

目の前の、レールを這う川の溝色
死にすぎた人々の、血かもしれない
眩しい
反射光

 

 

離れていくこと
追わない決意で
歩いていた
身体の隅々の夢は
いつの間にか色の違う水に溶け
行き場を失ったのでは無く
探すものも無く
ただ足下を拾い上げていた

適当に拾った貝殻が美しかったから
わたしはそのまま歩いてゆく

 

 

「  何も知らない

   知れない

   それを咎めない  」

土に埋まって
声を出す

潜る
土の底から返す

まだ滅ばない、にんげんの赤い根

歌う
この世界を初めから、この生肌で改めるため

 

 

産まれる

産まれる

産まれる
間に
母の天地 裏返る
ように
子宮の内から 月を見る
ように
泥の涙 塞き止めぬ
ように

さあ
継ごう

(探したって 見つけられない 命)

 

 

あの夜
眠りを震わせるものが
なにも見つからず
自ら踊りながら帰った

一秒毎に新しかった
生きていて
それでよかった

それでよかった

 

.

 

心が重心に反発していた
引き寄せるものの前で

どのようにしたら、全宇宙に全生命を委ねたまま
この世と接することができるのか


耳という受動に、山鳩の声がする

「わたし」は、自然

死も生も
地上に立つ
いつだって
真新しく、立っている

マスト

 

.

 

揺らす
命を揺らす
くらげたちの水
観念を忘れる
今 明日 泡
吐き出しながら、分離してゆく
流されても
残っていた
いま
掬い出すもの
それは離れていたようで
ただ閉じていた

泡立つ底で
きっと
鳴り続けていた

 

.

 

無感情に照らすお日さま

 

.

 

分裂

目の前に
わたしのような人がいる

分裂

離れた
私に

空と重力だけが残っている

 

 

 

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