佐々木 眞
西暦2021年文月蝶人酔生夢死幾百夜
突然右の耳が痛くなってきたので、どうしようかと迷ったが、「そうだ、おらっちはいまさっきイモカワ耳鼻科から出てきたばっかりだった」と思い出したので、急遽引き返そうとしたが、「まてよ、この痛みは夢の中の痛みで、本物ではないのではないか」と疑って立ち止まっている。7/1
ビデオ屋の訳知り爺さんは、ポルノビデオを買ったお客にすかさず、「お客さんは、次はO嬢の最新作が「ええですぜ」などと、余計なおせっかいメールを入れるので、悪評嘖々だ。7/2
8代目スカスカ男は、メキシカン名ではハント君だったが、そのハント君から、「新メキシコ語でハイビスカスの名前を新たにつけてくれ」と頼まれたので、張り切っているところだ。7/2
そいろく60歳また会いに正男かお金の小色2の中へ入っていった。7/3
久しぶりに職場を訪ねた私だったが、そこはもはや、昔日の面影は微塵もなく、見知らぬ若者たちが、無言で出入りする、荒涼たる空間と化していた。7/4
目の前に両端が少しけぶった空気の塊がある。いつも気になっていたので、ある日思い切って、それをクリちゃんに電送したら、なんと妙なる音楽が鳴り響いたので驚いた。7/5
それは「電気オルゴール」だったのだ。私が音楽家ならそのメロディを音符に書きつけて、マリアカラスか、美空ひばりに歌ってもらって再現だできるのだが、残念なことだ。7/6
その寺の住職には、有力者の後ろ盾があったので、自分がどうにも気に入らない、ホシナ的、或いはトヨヒラ的な檀家を、次第に排除することに成功した。7/7
夜中に布団の中を見ると、白いパジャマを着た黒目が輝く、娘がいた。いつの間に潜り込んでいたのだろう。でもこんな可愛いらしい娘がいたら、きっとウレピーだろうと思ったが、私には息子はいても、娘なんかいない。この子は誰?7/8
牧場には、たくさんのヒツジがいたが、その中に、ひときわ巨大な黒いヒツジがいたので、牧場主に「あれはなんだい?」と尋ねると「あれが噂の悪魔ヒツジでさ」と答えたのよ。7/9
おらっちは、久方ぶりに古里の村に帰省したんやが、まっすぐに我が家の露台に上ると、そこから天空の道を目指して飛び出した。7/10
さる将棋の名人が、指名手配の犯人を、将棋盤から叩き出したのよ。7/11
「GAFAの時代が終わったら、群雄割拠の戦国時代になり、わが社の天下もあるのではないか」と、マウスコンピューターという会社の社長が独語した。7/12
私ら同郷の者は、はじめのうちは味方同士だったが、途中から敵味方に別れても、けっしてお互いに殺し合うほどには追い詰めず、同じ釜の飯を食った生温かい紐帯で結ばれていた。7/13
大谷翔平選手の、風船玉のようにささやかな野望が、巨大なアメリカン・ドリームの胎内に呑み込まれてゆく姿が、見えた。7/14
離反した子分たちが、次々に立ち上がって、親分の横暴を批判していく。次はおらっちの番だが、おらっちたちの団結は、きわめて脆いことが分かっているので、ここで下手なことを云うと、親分の大反撃があった折に、半殺しの目に遭うかもしれないと、小心者のおらっちの心は揺れ動いた。7/15
「大谷選手が出てくると、世界中の耳目がそっちに行ってしまうから、おらっっちがいくら活躍しても、誰も褒めてくんない」と、ウチの小谷がこぼした。7/16
青白赤の三色旗を作って、全学共闘会議が結成された夜のキャンパスに登場したおらっちは、たちまちマスコミのフラッシュを浴び、学生叛乱の時代の寵児となった。7/17
ショー開幕30分前に、主任デザイナーが、スタイリストと駆け落ちしたので、楽屋は大混乱に陥ったが、臨時プロデューサーの私の奮闘よろしきを得て、なんとかかんとか無事に終わったのよ。7/18
これぞ大阪人ゆう奴を、大阪じゅう駆けずりまわって探したんやが、もおそんな奴は誰一人おらんかった。大阪は、そおゆう奴を、育ててこんかったんやね。7/19
せっかく開戦早々に敵艦を撃沈したというのに、本隊の捜索機も飛ばさず、ひたすら現場から離脱しようと焦るだけなので、「我が国の海軍は、この程度なのか」と、吾輩は絶望したことであった。7/20
最終テストは、2つの額をガンと打ちつけて、どちらかが倒れたら負けになるという古風なやり方なので、「これが2021年現在の最終面接試験なのか?」と、おらっちは、すこぶる驚いた。7/21
大病院の受付で、「おらっちはどこかが狂ってるような気がするのだが、どこかで調べて呉れまへんか?」と頼んだが、「最近はあなたと同じようなことを言って来る患者さんが多いので、とても困ってます。どこか他を当たってみてください」と、追い返されてしまったずら。7/22
有名無名作家の文章を、鋏で切り刻んで、雪のように、机の上に舞い散らせたものを、原稿用紙の上に、丁寧に並べると、前代未聞の名文章が、出来上がっていた。7/23
医者から禁じられているのに、ほんの気まぐれでコロナワクチンを接種してもらったのだが、やはりというか、案の定、それがおらっちのアナフィラショックとなってしまい、急いで手持ちのエピペンを腿に差したものの、間一髪間に合わず、おらっちは御臨終となったのよ。7/24
最初に住所と氏名を書き、次にコロナワクチン接種の希望の有無を書き、最後にこの世に望むものの有無、前者の場合は、その内容を書くと、人々は三々五々帰っていった。7/25
ワーテルローの戦場で、歴史的時間を刻んでいた大時計が、いつのまにか姿を消して、「てらこ履物屋」の女中部屋にあった、独逸製のオルゴール時計に掛け替えられていた。7/26
「いざカマクラの折りには、必ずおいらのとこへ来てくれ、ぜひ頼みたいことがある」とかねてショーグンがいうておったの、偶々そんときにおっとり刀で駆け付けると、「あのなあ、おいらの軍隊を全員武装解除してくれ」というので驚いた。7/27
「よし、明日からおめえさんの支店に出てやるよ」と、その名物バイヤー氏は気安く請けあったが、本当にやって来るのだろうか?7/28
敵地に敵前上陸したおらっちだったが、敵兵の銃剣で、右手の肩、腕、指を刺され、その余りの痛さに呻いたのよ。7/29
新築の家なのに、よく見ると、いたるところに瑕疵があるのは、何故なのだろう?7/30
わいらあ、フィリピンで、おじさんに育てられ、さんざん、人殺しなど、やってきました。7/30
50年代か60年代にかけて、コロンビア・レーベルで活躍したワルターやセルなどが、それぞれのオケを率いて、リクエストに応えて、どんな曲でもいくらでも演奏してくれる。しかも、レコードとは違って360度のステレオなので大迫力だ。7/31