「はなとゆめ」07 真昼の眠り

 

遠くで

小鳥が
鳴いていました

遠くで小鳥たちが鳴いていました

エロースは性愛

ストルゲーは家族愛
フィリアは隣人愛

アガペーは真の愛

古典ギリシア語で愛という言葉は四つあり
キリスト教で採用された愛はアガペーであるとウィキペディアにありました

性愛や家族愛や隣人愛はすこしわかりますが
真の愛はわかりません

昨夜ぼたるさんに電話して
鈴木志郎康さんの早稲田大学の講演会の約束をして

詩の原稿の約束をして

会社の仕事のことでクシャクシャになって純喫茶店で紅茶を飲んで
早々に届いた閑さんの原稿を見つめていました

神の留守とあった

真の愛とは人間の愛ではなく神の愛であって
神の愛は

神の人間への愛であって
親の愛とは異なり神には触ったことがない

神には触ったことがない

母はベットに横たわったまま息子のわたしを見上げて
そして動かない顔を歪めて笑います

その皺くちゃの顔や細く痩せた手や脚をわたしはさすります

別れのとき母は動かない顔を歪めて泣きます
もう声を出して叫ぶこともできない母が顔を歪めて泣きます

わたしはこの現実がなにかの間違いなのではないかと思うことがあります
わたしはこの現実が真昼の夢の一場面なのではないかと思うことがあります

遠くで小鳥が鳴いていました
遠くで小鳥たちが鳴いていました

早々に届いた閑さんの原稿を見つめていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

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