「はなとゆめ」13 待つ

 

 

和解できませんでした
父とは和解できませんでした

わたしが浪人していたころ

秋田から出稼ぎに出てきた父と
蒲田の居酒屋で口論になったことがありました

わたしは父を愛したいと思っていました
わたしは子どものときから父を愛したいと思っていました

そんな父がセキセイインコを預けにきたことがありました

父が飼っていたつがいのセキセイインコを
曙橋のわたしの下宿に預けにきたことがありました

また
父が脳梗塞で倒れたあとに

ひとりで見舞いに帰省したわたしが帰るのを
父は二階の窓から見送り泣いたことがありました

わたしはつがいのセキセイインコを愛する父や
声をあげて泣く父を

愛しいと思ったことがありました
愛しいと思ったことがありました

でも
そんなこと

生きてるとき
一度も父にいうことができませんでした

いま

マリア・ユーディナを聴いています
マリア・ユーディナの平均律クラヴィーア曲集を聴いています

ヒトは

すべてが
終わるとき

なにを語るでしょうか
ヒトはすべてが終わるときなにを語れるでしょうか

わたしは終わりを待って
ゆっくりと終わるのを待って

それから
語りたいとおもいます

きみが愛しいと語りたい
わたしはきみが愛しいと語りたいとおもいます

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

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