抱擁

 

原田淳子

 
 

 

その冬、
さらば青春の光を追いかけて
辿り着ついた季節外れの異国の浜辺
風に脱色された砂のキャンバス
空と海が溶けあっていた

黒いヒジャーブに身を包んだ女性が
風の試練に耐えるように顔を布に埋めながら
白いあわいの水平を歩く
生の動線に、存在の黒点

眩しくて暗い象徴の絵画

天と地が抱擁するあの白いあわいを
安寧というのだろう

ベン・シャーンの抱擁のように
哀しみと歓び
未来と過去
生と死が抱きしめあう

足跡が砂にきえてゆく
風が音を鳴らす
そこの石には穴があいてるのですって

きみの白い骨は
あの風の音がしたよ
砂を舐めて生きてきた音

きみの外から
わたしは口笛を吹いた
きみのいた時の音に重ねて

わたしはわたしの箱をつくる
来る時
来る鳥
わたしはそこへゆく
風が過ぎ去ったあとの抱擁を夢みて

 

 

 

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