solitude

 

原田淳子

 
 

 

それは毒だから噛んではだめよ
と母は体温計をわたしにあてた

毒で熱を測るなんてどうかしてる
幼ごころは昂って
毒を噛みたくなる衝動に
銀いろの毒はするする滑り
角度をかえて明滅した

秘すれば秘するほど
熱は膨れ
熟した果実は崩れて
銀を光らせた

淋しさは花束にくるみ
壁のない部屋を照らすために月を飾った

膨らみつづけた銀の決壊は
懐かしい音楽に似ていた

唇にherpes
helpless

露わになる幼き身体

鏡に映る水銀柱

そこに
花束をかかえたわたしの毒が
世界に ただひとり
銀いろに濡れて立っていた

 

 

 

grand finale

 

原田淳子

 
 

 

影も失くしたからだで
夢のくにの抽選
落伍者の船
ソドムの港

終わりにむかって鐘が鳴る
譜のパレード
波飛沫は眩しくて
戯けてみる

臆病さのかたまりで
頬は赤く腫れあがり
船は緑の泥に沈む
封印された文字が滲む

千切れた肌を縫う
コラージュ
傷みの地図

なつかしさもわすれて
仰向けに
天から降る降る滴

かみさま
降る降る

灰のなかで鐘が鳴る

燃えたのは、わたしだった

降る降るあなたのもとへ

灰の狼煙をあげよ

grand finale

 

 

 

雨と炎

 

原田淳子

 
 

 

あれは雨ですか
いいえ あれは炎です

不在の手紙を山羊が燃やしたのです

立ち上がる火柱は水の姿をかえた

野葡萄の海いろ
花に触れぬ蜘蛛の群青
青ざめた右下がりの文字
永遠に別れた緑

毒か、薬か

涙か、河か

嘘できれいなものと
泥でうつくしいものを交換する

貨幣は空まわる
贈与なんて、きれいすぎる

家を失くして
すべての地が庭となった
服は遺された譜
曝されたポケット
落とされた実は必ず拾う
拐かす蛇すらいない
苦さを頬ばる

夜ばかり描いているのは
朝がきてほしいから

夜にいるゆめを
朝につれてゆきたいから

 

 

 

ふたつの陣営

 

原田淳子

 
 

 

光の遺伝子
光のこども

象られたかたちは、ことばだった
印された譜は、手紙だった

滴の葉は船
林檎いろの黄昏の朝に
頚椎が囁く

はじめての生まれたての世界

窓が震え、電報を打つ

金木犀に溺れて
23時の浴槽

戸袋のスズメ蜂の巣が転がる

蜂が囁く
雨は、あなたの手紙ですか
わたしたちに、滅びろと?

秒針は荊に絡めとられた

洪水の波がとどかぬ線を
あなたが引く

わたしは石を置く

かたちが溶けたら
ふたつの陣営は踊り、
光のビブラート

蜂たちの
羽根はまだ生まれていない

 

 

 

 

原田淳子

 
 

 

ゆめのじかんがおわった朝は
きえてゆくゆめを栞にして
自転車にのる

図書館の地下書庫の剥がれた請求記号

汗に濡れた皮表紙

仄暗い、黴のにおいのなかで
かたまってしまった913.6のことばに
似たゆめをみつけて、栞をさす

きえたゆめのぶんだけ、栞をさす

秘密の暗号のように
永久に知られないまま
朽ちて、塵になる

どれくらいの栞があるのか
それがなんの栞だったのか
黴の匂いでわからなくなって
偉人たちの写真も
ゆめのいろも
わすれるまで、栞をさす

さしつづける

夜は台所でタオルと靴下をあらう

遠くで河が流れている

わたしの真うえを雲が流れている

わたしも
栞も
雨にうたれて、塵になる

 

 

 

鬼火

 

原田淳子

 
 

 

ひるもよるもなくあかるみ
抜け殻をひろいあつめる

新しい青いサンダルは鱗の染みができる
ついに魚になって跳ねる

排水溝に光る夏の拡声装置

“行方不明者を探しています”

埋もれた市民プールの底には鏡があって
水のむこうへ宙がえりする
醜さをわすれるまで千メートルの呼吸

つめたさのさきのあたたかさで
たましいは吹き飛ばされて
鳴き尽くした蝉が降ってくる

さよなら
あなたのとぶところをみたよ

じめんは剥がれた羽根の地層

 
“行方不明者を探しています”

あそびおわった骨がもえてる

 

 

 

last song ending

 

原田淳子

 
 

 

雨粒に光
暗闇はまぶしいって、はじめて知った

光の速さで
願いごとをかけるまもなく
雨は流れ星になった

与えられた問いは単純で
扉は開いてるはずなのに
ふくざつに絡みあってしまった鳥籠のなかで
雲の影がかたちをかえた

望んだものは与えられた
願いを投げたところとは違う角度から

おまえは自分の掌しかみえてないね
おまえの背中をみてごらんとでもいうように

生は死にぶらさがり
死は生にさかあがり

生まれてはじめてのことばをおもいだしている

誕生は月食

願いは純化して
雨粒が鳥籠を砕く

暗闇がまぶしい

 

 

 

想いで売り

 

原田淳子

 

 

洪水の余波
世は
夜は

窓のむこうは 暴風雨

真っ赤な想いで、いらんかね
胸に弾けるようなハンカチーフさ

雲の想いで、いらんかね
鱗雲、羊雲、眼醒めた頰に

窓に映るは who are you

空白ー あの声は誰

A♭の想いで、いらんかね
螺旋の果実
G#にも裏がえり

蜜蝋の手紙
透けた文字は反転し

吊るされた太陽
戻れない単線区間

レモンチェッロの涙
土砂降りのベッド
祝福と名づけた呼吸

空白-誰かが、月の真似して

想いで、いらんかね
いらんかね

空白- 白んでゆく、泡

 

 

 

滝壺と蟻

 

原田淳子

 
 

 

街路樹の、凍れる波

千ねん百にちのあいだ
あなたは滝だったのですね

遺されたのは、あなたのうた
波の譜
指で聴く

蟻の彼はあなたの詩をおいかけて
滝壺に潜り
波を揺らしています