紫陽花 à la mode

 

原田淳子

 
 

 

七つさがりの雨
滑りはじめは猫のように

砂混じりの看板”喫茶ロージナ”に
捨てられたサングラス
錆びた金の縁
貝殻におかえり

メトロノームを吊るしたひとはだれ?
雨が逆さに刻んでる

想いでのように、滲む

過去分詞のテーブルに
もう熱は配さない
皿の刺繍が褪せてしまう

花は支配した瞬間に死ぬ

蜘蛛の位置から花をみる

紫陽花のalert
白の意味するのは…

橋を光らせてはならない
赤が逆流する

東京 alert
東京 à la mode
pudding à la mode
まだ、食べたことはない

白の意味するのは…

 

 

 

その日の花を摘め

 

原田淳子

 
 

 

飛散させて

通りすがりのあなたに

種を宿せず
髪は肥料にもならず
春はわたしを啄み、
わたしを産み、
去ってゆきました

わたしの色は、夏のそれだと

秋は背を向けて、三億人の他人のよう

花弁をあつめて
心臓のふりをしてきました

Carpe diem

“その日の花を摘め”

あしたを信じてはならぬ.
きょうが終わるまで
わたしには永遠です

不滅の生には語るべきものがなく
原因と結果を永遠に繰り返す

 

飛散させて

わたしを摘むのは、雨ですか

濡れた初夏、
あなたは、
通りすがりの.

 

 

 

フレア

 

原田淳子

 
 

 

百年か
千年か
以前、以降、が生まれた夜明け

胸に宿る黒い炎
蘇生する白い炎

ガーゼは吊るされ
光を濾過して、わたしの衣服となった
窓辺のフレアスカート

輪郭を失くした軒先で
主人は煙草をふかしてる
わたしは罹災の地図を舐めて歩く

有線だけは威勢がよくて
プラットホームで空回って
乗客の肩に乗る
涙でピアスが痒い

“動くな、死ね、蘇れ”

ひとびとは触れられない細胞壁のむこう
戻れない世界、はじめまして。
きみの名は?

わたしの胸に燃えたぎるフレア
みえないから、きっとグレー
慈しむべき、まるごとの身体

試練と観察は愛を発明する
つまづいた石のうえに物語がある
希望は石の下に、密やかにある
( 死なないために )
まだ、ことばは地面のなか
詩なんて時じゃないだろう

潔癖と寛容の天秤座は泣き顔の雨
謝らないで、
あなたごと抱きしめてあげる
わたしに腕があれば

死と生の双子座は風花
春を謳う
築いた城は朽ちる
いつか観た、『王と鳥』ね

完膚なきまでに
打ちひしがれ打ちのめされ
約束は、脆く、淡く

オンラインは苦手
カメラは怖いから回さない
夢であえたら

夢がなければ、千年のあとに

夜の大学通りのベンチにて
心臓で電報を打つ
珈琲に滲んで文字は消えた

遺されたのは周波しかないなんて
文明の墓です

太陽の審判

粥をつくる
香草を刻む
いちにちの身体
まだ生かされている

命は器に盛られている

糸は切れ切れに、波を縫う

 

 

 

反射

 

原田淳子

 
 

 

刻まれることない
墓のしづけさで
蕾を数える

薫る朝までのゆめ

/

石の光の反射に過ぎない星の位置に
人型を紡ぐのが翻訳だとしたら
温度のない無機物に
もしかしたらVirusにさえ人型を求めるのは
人は断絶を恐れているからでしょうか

翻訳が断絶の治療薬でしょうか

それとも
流れてゆく人型を忘れぬための.

/

横ではない縦の階層のオーロラ
滝を横滑りする
意味を翻して

遠近法は、距離
星々の摩擦
向きは光速の逆位置
意味を反射せよ

/

逆さまの滝に
彼方の横顔を描く

いないあなたは
いないわたしの反射

倒れているのは塔ではない

流れいる船
小動物たちが温めあう

声だけが
彼方に反射する

 

 

 

暗闇RGB

 

原田淳子

 
 

 

とおり雨が去るのを待って
夜を渡る

胸さわぎで
溢れないように
拒絶しないように

影も映らぬ
窓を開ける

もういいかい?
もう鳥たちは眠ったよ

殻を外して
羽根を弄る

草葉の陰に
ことばを産む

シアンではない
黄混じりの暗闇
ミモザの騒めき

あぁ
蟲たちの羽音を聴く

慈しみを腐敗させないために

遠くへ

卑屈さを奏でない
哀しみに胸を灼くなら

遠くへ

蟲たちのように
屍はみせない

暗闇のRGB

ミモザの海

 

 

 

solitude

 

原田淳子

 
 

 

それは毒だから噛んではだめよ
と母は体温計をわたしにあてた

毒で熱を測るなんてどうかしてる
幼ごころは昂って
毒を噛みたくなる衝動に
銀いろの毒はするする滑り
角度をかえて明滅した

秘すれば秘するほど
熱は膨れ
熟した果実は崩れて
銀を光らせた

淋しさは花束にくるみ
壁のない部屋を照らすために月を飾った

膨らみつづけた銀の決壊は
懐かしい音楽に似ていた

唇にherpes
helpless

露わになる幼き身体

鏡に映る水銀柱

そこに
花束をかかえたわたしの毒が
世界に ただひとり
銀いろに濡れて立っていた

 

 

 

grand finale

 

原田淳子

 
 

 

影も失くしたからだで
夢のくにの抽選
落伍者の船
ソドムの港

終わりにむかって鐘が鳴る
譜のパレード
波飛沫は眩しくて
戯けてみる

臆病さのかたまりで
頬は赤く腫れあがり
船は緑の泥に沈む
封印された文字が滲む

千切れた肌を縫う
コラージュ
傷みの地図

なつかしさもわすれて
仰向けに
天から降る降る滴

かみさま
降る降る

灰のなかで鐘が鳴る

燃えたのは、わたしだった

降る降るあなたのもとへ

灰の狼煙をあげよ

grand finale

 

 

 

雨と炎

 

原田淳子

 
 

 

あれは雨ですか
いいえ あれは炎です

不在の手紙を山羊が燃やしたのです

立ち上がる火柱は水の姿をかえた

野葡萄の海いろ
花に触れぬ蜘蛛の群青
青ざめた右下がりの文字
永遠に別れた緑

毒か、薬か

涙か、河か

嘘できれいなものと
泥でうつくしいものを交換する

貨幣は空まわる
贈与なんて、きれいすぎる

家を失くして
すべての地が庭となった
服は遺された譜
曝されたポケット
落とされた実は必ず拾う
拐かす蛇すらいない
苦さを頬ばる

夜ばかり描いているのは
朝がきてほしいから

夜にいるゆめを
朝につれてゆきたいから

 

 

 

ふたつの陣営

 

原田淳子

 
 

 

光の遺伝子
光のこども

象られたかたちは、ことばだった
印された譜は、手紙だった

滴の葉は船
林檎いろの黄昏の朝に
頚椎が囁く

はじめての生まれたての世界

窓が震え、電報を打つ

金木犀に溺れて
23時の浴槽

戸袋のスズメ蜂の巣が転がる

蜂が囁く
雨は、あなたの手紙ですか
わたしたちに、滅びろと?

秒針は荊に絡めとられた

洪水の波がとどかぬ線を
あなたが引く

わたしは石を置く

かたちが溶けたら
ふたつの陣営は踊り、
光のビブラート

蜂たちの
羽根はまだ生まれていない

 

 

 

 

原田淳子

 
 

 

ゆめのじかんがおわった朝は
きえてゆくゆめを栞にして
自転車にのる

図書館の地下書庫の剥がれた請求記号

汗に濡れた皮表紙

仄暗い、黴のにおいのなかで
かたまってしまった913.6のことばに
似たゆめをみつけて、栞をさす

きえたゆめのぶんだけ、栞をさす

秘密の暗号のように
永久に知られないまま
朽ちて、塵になる

どれくらいの栞があるのか
それがなんの栞だったのか
黴の匂いでわからなくなって
偉人たちの写真も
ゆめのいろも
わすれるまで、栞をさす

さしつづける

夜は台所でタオルと靴下をあらう

遠くで河が流れている

わたしの真うえを雲が流れている

わたしも
栞も
雨にうたれて、塵になる