電気

 

塔島ひろみ

 
 

高い塀の上に 有刺鉄線がめぐっている
一帯はどんよりと暗くまるで小さな森のようだが
塀の中から伸びるのは木ではなく
どこまでも高い鉄塔だ
両腕を水平に伸ばして掌を上に向け 
巨大な 孤独な 体操選手のようにまっすぐに
黒い 冷たい空気の中に そびえている

「◯◯変電所」というプレートが貼られた街道沿いの入り口とは逆側に
この塀の中に入る別の小さな口があり
従業員の自転車が1台だけとまる
その口から 午後4時を過ぎたころ
小学生の女の子がひとり、またひとりと、塀の中へすべりこみ
鉄塔脇にある粗末な小屋の中に集まった
小屋は電気がなく薄暗い
「じゃあ、やろっか」
年長らしい子がひそひそ声で言うと
少女たちはスカートをはいたままパンツを脱ぎ
両膝を立ててしゃがんで 股を広げた
暗がりの中で 少女たちは自分の股をのぞきこみ
それから見せ合いっこをする
年長の子が床に顔をすりつけ 一人一人の股をいじくりながら評価する
少女たちはくすくす笑いながらそれを聞いた
「皺だらけのおばあさん」「納豆のにおい」「おトイレの紙が残ってくっついてる!」
酷評を受けるたび 少女たちは大笑い 股たちも一緒に笑って揺れ 尿がこぼれた

この単純な 遊びともいえない遊びを
少女たちはくりかえし くりかえすために何度もその小屋に集まった
学年も クラスも違い 名前も知らない 友だちですらない4人だった

厳重に目隠しされた塀の中で 変電所は24時間コソコソと働き
地域の家に 会社に 公共施設に そこで暮らす人間たちに 「でんき」という魔法をかけるのだった
その魔法からするりと抜け出し
少女たちはその 同じ秘密の塀の内側の暗がりで
灯りの下では見えないものを見て
それからゆっくりパンツをはいた

別れる時振り返り、どこまでも高い鉄塔を見上げ
「これ、寒そうだよね」
そんなことを言って思わず
足を広げ手を水平にのばして掌を上に まっすぐ冷たい黒い空気に立つ
股とパンツの間に入りこんだ冷気が 少しずつあたたまっていくのを感じる

それから それぞれの魔法の家に帰っていく

 
 

(1月某日、奥戸3丁目変電所裏で)

 

 

 

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