佐々木 眞
こないだおらっちが、セイユーで買ってきた大好物のドラ焼きを食べようと、冷蔵庫を開いたら、影も形も無かった。
きっと、コウ君に、食べられてしまったんだろう。
ドラ焼きは、木村屋總本店の特製で、「蜂蜜入りのしっとり生地」が特徴だ。
税抜き価格68円と安価で、「つぶあん」と「さつまいもあん」の2種類があるが、おらっちは、どちらかといえば、シンプルな前者を好む。
しばらくして、冷蔵庫を開けた妻のミエコさんが、「きゃああ、私が大事に取っておいたチョコレートがない!」と叫んでいる。
これもきっと、コウ君に、食べられてしまったんだろう。
コウ君ときたら、まるで欠食児童、みたいだ。
施設のご飯の分量が少ないうえに、食後におやつもデザートも出ないから、金曜日の午後に帰宅したコウ君は、“100年前から飢え続けの狼”のように、なんでもかんでも、がつがつ食い荒すんだ。
いいよ、コウ君。なんでも食べな。
お前さんの好きなものを、いくらでも食べな。
まもなく私たちが居なくなって、ホームが家の代わりになったら、ドラ焼きも、チョコレートも、あんパンも、アイスクリームも、自分勝手に食べるわけにはいかなくなるだろう。
だから、いまのうちに食べておきな。
ドラ焼きも、チョコレートも、あんパンも、アイスクリームも、
なんでも、かんでも、君が好きなだけ、食べていいよ。
いまのうちに、どんどん、じゃんじゃん、一生分を食べておくんだよ。