オートバイ

 

塔島ひろみ

 
 

わたしの朝でない朝がきた
だからまた目を閉じる
わたしはオートバイではない

陽が照らすわたしをオートバイと人は呼ぶ
どしんとまたがってエンジンをかける
まっぴらなのに
走るなんてできない これっぽっちもしたくないのに
親でも恋人でもないヒトをのせてわたしの道でもない道を走る
だからそれは わたしではない
わたしはオートバイではない

チャイムが鳴った
わたしは草の布団に包まれ 目を閉じている
ピンポンピンポン鳴りつづける
わたしはオートバイじゃない
だから 学校になんか行かないよ
いくら呼んだって 起きないよ

土手に引きずっていかれ写真を撮られた
川が見えた 発泡トレイが浮いていた
それから蹴飛ばされ 転がり落ちて
発泡トレイが見えなくなった

黒い鉄の柵の内側に
こわれたオートバイたちがぞんざいに置かれ足から錆び 腐っていく
もうそれらは走れない 歩けもしない
だからもうオートバイとは呼ばれないで
ごみと呼ばれる
雨が続き雑草がぐんぐんのびピンク色の花が咲いた
子どもたちが列になって黄色い帽子をかぶって電車みたいにつながって
歩いていく 黄色い旗を持ったおじさんがその先で待っている
「おはよう」「おはよう」と声がする
あちこちから似たような黄色い集団が現われて
1か所に収れんされていく
わたしはオートバイじゃないから
そこには行かない

手はなかった
鼻は半分潰れ 下半身はメチャメチャだった
黄色い旗のおじさんは子どもたちを見送ると
その石の塊の前で手を合わせる
子どもたちが無事でありますように
正しく成長しますように
だけど
わたしは地蔵じゃないから
祈られたってどうすることもできないよ
地蔵と呼ばれる塊は ニヤリと笑ってウインクをした

ウインクを返す
夢がむくむくと広がっていた
心はいっぱいで はじけそうだ
雲がわきたち
わたしをオートバイに見せる太陽が隠れていく
わたしはオートバイじゃない
だから どこまでも自由だ

 
 

(奥戸6丁目、産業廃棄物置き場のそばで)

 

 

 

オートバイ」への1件のフィードバック

  1. おもしろ~い、なんだか疾走感があっていいですねえ。そこはかとなく悲しい感じもします。でも、なんだかあっけらかんとしています。

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