冬の中の流れることばをとめて

 

ヒヨコブタ

 
 

好きな歌手の歌詞ばかりを集めた詩集のようなものを数冊パラパラとめくっては
この数十年を思っている

この歌が大好きだった頃は、と
あまりに輝かしいこととは無縁だと思っていた
その頃のじぶんの若さ
このまま這い上がれずに沈んだままなのかと怯えたいくつもの夜

通い慣れたカウンセラーは
昔精神科というものがコンビニのように立ち寄りやすく、奇異なばしょではなくなることを願っていたという

その数十年、這いつくばって生きてきたわたしは
あの頃のようには絶望もしない

世界では理不尽がまかりとおるのにも
憤慨することは変わらないのに
わたしじしんというのは
変わっていくものだとそれじたいは受け入れることができるような齢にはなったのかもしれなくて
それがあまりに残酷な裏表を持っていることもわかるから
時々は思いきり涙を流す
誰のための涙なのか
わたしじしんがまだ理不尽をゆるせず
人ではなく、人の中にたしかに感じる理不尽と戦っては涙する

年老いた人達と数少ない兄弟に
送った手紙は沈黙の返事しかない
もう大丈夫だよといっても意味がないことも
少しは、のみこまなければならないのだろう
のみこみ、咀嚼して強くなりたい

ああ寒い冬が
わたしのこころには優しい
寒い冬や雪はいつも味方だと思う
そこになんの汚れもなく、しんと冷え切って
わたしには静けさが残るから

ぱたりと倒れながら、涙しながら
今日も冷えた空気を受けて、少し歩く

 

 

 

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