ある提案

 

長尾高弘

 
 

(以下は一種の文学作品のようなものとして読んでいただけると幸いです。つまり、書かれていることをあまり真に受けないようにしていただきたいということです。しかし、今問題になっていることについて考えるきっかけにしていただければ幸いです)

 

安全保障環境の悪化に対処するために、
敵基地攻撃能力を始めとする防衛力の整備・強化が不可欠だって意見が、
国民の多数を占めてるんだってさ。
そのための財源を増税に求めるか、
赤字国債のさらなる発行に求めるかでは、
争いがあるそうだけど。
要するにより小さい争いを前面に出して、
しかももっぱら政府与党関係者を画面に登場させて、
一般市民が軍拡反対を唱えるのを封じてるってわけさ。
この勢いなら、
先の大戦に負けたときの不戦の誓いなんてどっかに吹っ飛んで、
きっと、
戦争を始めるんだろうなあ。
そこでちょっと提案があるんだけど、
どうせ戦争するなら、
悔いのない戦争になるように、
ひとつ法律を作ったらどうかな。
それは、
開戦前に、
最終確認として、
自衛隊の戦争、じゃなくて防衛出動に賛成か反対かを、
国民投票してもらうってものさ。
賛成が過半数を占めたら、
そりゃあもうしょうがない。
どうぞ好きなだけ戦争、いや防衛出動だっけ、それをやってください。
ただし、
自衛隊に召集されて防衛出動に参加するのは、
国民投票で賛成した人だけとします。
だって、
戦争反対の人が戦争に行っても、
もともとやる気がないんだから、
何の役にも立たずに死ぬだけで、
それは犬死にってものでしょう。
それは憲法97条で
「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託された」
と謳われている基本的人権を侵すことであり、
絶対にやっちゃあいけません。
やる気がある人だけで戦争するのが
合理的ってものですよ。
ただ、この法律にはちょっと難点があるよね。
普通の選挙の投票なんかでは、
誰が誰に投票したかがわからないから、
投票者の自由意志が保障されるわけだけど、
この防衛出動賛否投票では、
投票内容がわからないと、
その人が防衛出動参加不適格者かどうかはわからない。
だから、
投票用紙を見ただけでは誰がどっちに投票したのかがわからないようにしつつ、
自衛隊に召集された人のうち、
防衛出動反対の人だけは、
反対投票をしたことが証明できるような手段を考え出す必要があるわけ。
たとえば、
投票時に全有権者に一意なIDを発行し、
そのIDが印刷された紙に賛否をマークして投票するとともに、
同じIDが印刷された控えを持って帰れるようにする。
もちろん、投票事務を司る人々であっても、
個々人に発行されたIDがどんな数字かはわからないようにする。
同じ投票所に類似のIDが集中しないように、
ID発行マシンはランダムな数値を発行するようにしなければならない。
投票用紙、控えとも、お札のように偽造できない紙を使う必要があるよね。
で、反対投票者が自衛隊に召集されたときには、その控えを持っていく。
投票結果は全部暗号化されたデータベースに保存してあって、
スキャンした控えのIDと投票用紙のIDを照合して、
賛否を確認する。
まあ、敗戦前の言葉で言うところの徴兵検査は必要だろうから、
その最後で照合をすればいいんじゃないかな。
で、照合をしているかどうかは誰も見られないようにする。
投票内容と身体検査等々のどちらで参加不適格になったかわからないようにするわけ。
こうすれば、投票で反対した人でも、
健康上の問題などがなくて照合をしなければ、
戦争に参加できるよ。
そして、反対投票した人の安全が保障されるような措置も必要だ。
たとえば、控えをこれ見よがしに捨てていくようなことは罰則を設けて禁止する。
戦争に積極的な人たちは、
往々にして、
戦争に反対する人たちを非国民扱いしがちだけど、
負ける戦争を無理やり始めようとする人たちの方が、
国を愛する気持ちが弱いっていうものじゃないのかねえ。
そういうときは反対するのが本物の勇気ってものだよ。
まあ、この仕組みにはきっとボロがあるだろうけど、
頭のいい人たちがよく考えたら、
一見不可能に見えるこの条件も可能にできると思うよ。
こういう制度が実現できたら、
先の大戦のように短慮で防衛出動、いや戦争を始めるようなことは少なくなるんじゃないかなあ。
だって、防衛出動の決定に対して
国民一人ひとりが責任を取ることを迫られるわけだからね。
なかなか賛成投票はできないでしょ?
もちろん、国民投票の発議に賛成した国会議員の反対投票は無効です。
誰よりも先にお国のために戦ってくださいね。

 

 

 

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