村岡由梨
花の詩を書こうとして、花のことばかり考えている。
花の為なら、両腕を切り落とされてもいい。
命を捧げてもいい。
それなのに、なぜ私
朝早く、起きられない。
普通だったら、他の誰よりも早く起きて、
炊き立てのご飯
具沢山の味噌汁
卵焼き
焼き魚 なんかを食卓に並べて、
食べ終わったら、
「いってらっしゃい」と言って学校へ送り出すのに
できない。
朝早く、起きられない。
大抵の人が普通にこなしていることが、
できない。
「ネグレクト」「だらしない親」
夢うつつに、花が玄関のドアを開く音がして、
慌てて「いってらっしゃい!」
と声を張り上げるのだけど、
私の声は、花の無言に吸い込まれて
あっという間に消えて無くなる。
「これ毎日じゃなくて、多くて週5日の内の2回だね」
けれど、ごく稀に、
花のお友達が家にお泊まりする時は、
花に恥をかかせまいと、
誰よりも早く起きて朝ごはんの用意をする。
サラダ
トースト
スクランブルエッグとベーコンの焼いたの
フルーツ を
ワンプレートにきれいに盛り付ける。
なぜ、こういう時は早く起きられるんだろう。
「自分が恥をかきたくないからでしょ」
たまにお弁当のある日は
早く起きて
お弁当を作る。
「ただし冷食だらけ」
花の中学校では
「早寝・早起き・朝ごはんカード」を書く習慣があった。
ある1週間をピックアップして、
何時に寝たか 何時に起きたか
朝食に何を食べたか、を
記録するという。
各々1週間分記録したところで
保護者からの一言コメントを書く欄がある。
震える手でピンク色の表紙のカードを開く。
×(何も食べていない)
×
いちご蒸しパン
×
コッペパン
×
毎朝無言で家を出る花の後ろ姿を想像して、
「これは何とかしないと」と思って、
フレンチトーストを作ってみたり
炊き立てのごはんと味噌汁にしてみたりもしたけれど…
「ママはどうせ、やっても続かないじゃん」
たまに家族旅行へ行くと、
「旅館で出る朝ごはんがすごく楽しみ」
と花は喜び、
以前、花が起立性調節障害の疑いで検査入院した時は、
「ママ、病院食って、おいしいよね」
と笑顔の花がいた。
ある日「塾があるから、夕飯18時で」
と花に言われたのに、
出来たのが18:15だったことがあった。
「食べてたら遅れるから、いらない」
そう言って花は勢いよく出ていって、
私は、作ったうどんを捨てた。
自分の分も、捨てた。
「花が空腹を堪えて塾へ行ったのに、
私がのうのうと食べていては、いけないと思った」からだ。
「は? なんでママの分も捨ててんの?
やっぱママ思考回路とか色々おかしいよ。
めんどくさ」
昼食は、小学校・中学校の給食に助けられ、
いよいよ夕食、私の出番だ。
とにかく野菜をたくさん食べさせたい。
お正月のお餅がたくさん残っていたので、
お雑煮を作った。
鶏肉(脂身はきれいに取る)
にんじん、大根(両方とも皮付きのままイチョウ切り)
ぶなしめじ、ごぼう、ほうれん草
ザンゲの気持ちを込めて、
野菜を ザク ザク ザク と切る。
ブラウンシチューは、
玉ねぎを多めにスライスしてよく炒める。
にんじんは、やはり皮付きのままイチョウ切り。
それにたくさんのキノコ類(エリンギ、ぶなしめじ、エノキ)と
豚肉の薄切り、ブロッコリーを入れる。
1日目は、生協の塩バターパンと一緒に食べ、
2日目は、ご飯にかけて食べる。
他によく作るのがピーマンの肉詰めと
アスパラ(またはインゲン)のベーコン巻き、
タラと玉ねぎとじゃがいもとブロッコリーのホイル焼き など。
それで、たまに見栄えの良い食事が出来上がると、
すかさずスマホで写真を撮って、
Instagramにアップ。
「はい、私きちんとやってますアピールね」
こんな母親で、ごめんなさい。
これでも、あなたは私を良い母親だと言いますか?
こんな母親でも、花は
「ママ、絶対死んじゃダメだよ」
「ママが死んだら、遺灰食べるからね」
と言って抱きしめてくれます。
疲れ切った私を、あの手この手で笑わせてくれます。
仕事の合間に美味しいケーキを食べると、
真っ先に頭に浮かぶのは、眠と花。
ふたりに食べさせたいと思うのです。
子供が飢えるのは、何よりも辛い。
それなのに、なぜ
なぜ私は、朝早く起きられないの?