団地

 

塔島ひろみ

 
 

洗濯物が一斉に干された
雨の予報が出ていたけどこんなに晴れて春の陽気で
シャツやブラウス、帽子に靴下、カバー類
強い南風に歌うようにはためいている
団地の壁は肌色だ
ちふれ33番の肌色だ
ひび割れと落書き
シミ ほくろ 皮疹跡の醜いまだら
毎日 塗り重ねて
塗り重ねて 塗り重ねて
わたしはおばあさんになりました
冷蔵庫に霜がたまっていきます
換気扇に油がたまっていきます
ベランダにかたつむりの死骸がたまっていきます
ちふれ33番 オークル系 自然な肌色
その「自然」を
不自然で汚い顔の皮に塗りたくって出かけます
リュックをしょって 南風にさらされて
吹き溜まりは枯葉と 得体のしれない燃えないゴミ
牛や馬の骨が埋まっていると書いてあった
大昔の人間が使った家畜の骨だと書いてあった
団地はその上に平然と立つ
はげても はげても 塗り足して 
ペンキを滴らせて 立っている
あくまでも肌色で 剥がしても肌色で
掘っても 打ちのめしても 肌色だ
裸のようだ

早く部屋が開かないかなあと待っている
早く死なないかなあと待っている
早くくずれないかなあと待っている
団地になりたい
誰もいないのに洗濯物が干してある
みんな死んだのに開いた牛乳パックが干してある
団地になりたい

フギャーと赤ん坊の泣き声がする
階段を
レジ袋を提げたおやじがのぼっていく
郵便受けを開けて ハガキを手に取る
ハガキを読んでいる
ハガキを読みながら ずうっと読みながら
ゆっくりゆっくり 
どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも
階段を上がる
フギャーと赤ん坊の泣き声がする
肌色の割れ目から子どもが生まれた
あちこちの割れ目からこぼれるように 
子どもが生まれた
泣いている 泣いている 泣いている

とても静かだ

 
 

(3月某日、奥戸二丁目アパートで)

 

 

 

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