四万十の風を

 

ヒヨコブタ

 
 

人の命や一生について考えさせられる日々にいる
元気だった父の容態が突然悪化し
呼吸器をつけ眠っている
24時間そうなってからしばらくになり
最初の慌てふためくじぶんから
まだ諦めぬというじぶんに変化した

嫁になったわたしに父は言った
今日からはほんとうの娘のように思うと
孫も産めなかったわたしに
つらくあたることもなかった

そのひとのルーツは大変にこみいったもので
つらくさみしいこともこぼすことなく
息子と娘、そしてその孫をひたすら愛している

よみがえってほしいと毎日何度も祈る
そしてそのひとがまだ見ぬ四万十の水がたゆたうところへ一緒に行くと決めている
そこがルーツなら、わたしも見たいのだ

戦時中の話、たまたま疎開していて空襲からは逃れたとき、夜汽車で握り飯をもらったと
まだ幼かった父のそれからは過酷だったろう

母だった祖母が奏でる三味線
桜並木が美しいと移り住んだまち
裕福と健康からは遠かった若い父は
派手なことは望まぬ囲碁の名手だ

もう一度、息子と囲碁ができますように

叶えられぬとは思わない
わたしは最後まで諦めず
父に四万十の風や景色を見てほしいと思っている
先に旅立った私のすべての身内に
まだ来ぬようにと追い返してもらおう
そう強く、何より強く思っているのだ

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です