原田淳子
灼けつく壁に垂れ下がり
息を凝らしている
夏は無かった
ただ白百合が揺れていた
漂白された運動靴
葡萄棚の海
カー・ステレオから
ポール・モーリア「涙のトッカータ」
昨夜読み耽った
マッカラーズのワンシーンが繰り返される
木、石、雲に宿る愛の科学
無かったのではなく
散っているのだ、四方の光に
未来も過去もなく
凪を潜りぬけてゆく
窓に映る
青い影のほおずき
秋に朱に燃ゆる
わたしのこころ
いつか
この凪の季節を
優しく想い出すときが来るだろう