父を送る

 

ヒヨコブタ

 
 

何度もねばり息を吹き返した人が
その生涯を終える日がきた
各所に連絡し決めることはあまりに多く
でもどこかぼんやりしてしまい
私は泣けずにいた
いまは火葬するのも順番待ち
父はずいぶんと安置されることとなった

その人生は嫁として振り返っても容易でなく
悲しくさみしいことも語れぬほどあったろう
幾人も先に旅立った人たちを思っても
父の人生は壮絶だった
思い返しながら手を動かし頭を働かせる
その人の穏やかで優しい笑顔に
いつもさり気なく身なりをほめてくれる人
父のことを慮ることばをわたしはかけただろうか
今となっては伝えたいことも連れて行く場所も夢のまた夢

戦時中の疎開先から戻る夜汽車は
心細かったろう
少しの握り飯を父へと分けてくれた人に
こころからありがたいと思う

火葬場に向かう空はまるで迎えに来たとも言われそうな
美しい雲が浮かんでいた
ああ、お父さん迷わずに行けそうだねと隣で優しい婿がつぶやく
私はただ空にのみこまれるように見つめて
通夜の席で蛇口を開け放したような涙腺がまた崩壊する

きれいな骨となり父は大好きな家に戻った
ありがとう、あなたの嫁で世界一幸せでした
からだの隅々からそう思っている

 

 

 

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