ヒヨコブタ
永い眠りについたその人は
わたしの片思いびとだ
子どもの頃からそう公言し、何度もあきれられてきた
けれども彼の歌のボビーのように諦めることもなく数えればながい時間が経っていた
歌詞の意味がわからないほど子どもだったわたしには、それすら懐かしく思える
初めて家を出る、というのを文字通りに捉えて家族もあきれていたがそれも今では可愛い思い出のよう
彼が居なく、難しすぎるピアノ伴奏を作り上げることもなく、語学を学ぶこともなく、突然海外に行ってしまうこともないと思うと
やはり悲しい
悲しいとしか言いようがない
いつまでも私の思いびとは変わらずこのひとなのだ
東大を目指すといったこともあるな、音大に入ると言ってもいたな
けれども彼が人生最高の伴侶を見つけたとき
嬉しくて悲しくて部屋で飲みつぶれたな
だめだよ、彼女を置いていくなんて早すぎるよ
そんな珍しい病気になってしまうなんて、あなたらしすぎて悲しいよ
毎日どれかは口ずさみ、じぶんの脳内にどれほど彼の曲が遺されたかを知る
そしてその度涙が出る
あんなに優しくて心遣いも一流なアーティストのあなたが
もう居ないなんてこの世界は何なのだろう
わたしには考えれば考えるほどわからないのだ
あなたが美人と公言して憧れたひともあなたを思う記事を書いていたよ
なんだ、本当に良かったじゃないか
がんばったね、大好きなひと
わたしはあなたの遺した演奏会の幕が閉じても立ち上がれずに泣いているあの日と同じようにまだ、泣いているんだ