ステーキの後の角煮や赤ワイン煮込みのシチュー

 

駿河昌樹

 
 

物語に触れたくないときが
けっこう
いっぱいある

ステーキを食べたあとで
角煮とか
赤ワイン煮込みのシチューとか
出されるような気分

小説であれ
映画であれ
ドラマであれ
小さなお話であれ
なにか
ストーリーのあるものに
もう今は
絡みとられたくない
入り込みたくない
そんな気分

じつは
三十年ほど前から
はげしく
はげしく
そんな気分になっていて
だれかの人生にまつわるお話も
「今日こんなことがあったんだよ」的な
ちょっとしたお話も
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

それでいて
物語の最たるものである
歴史なら
どんなものでも
スポンジが水を吸うように
いくらでも
ごくごく飲み干さんばかりの
奇妙な気分

どうやら
ひとが創作したものに
拒否反応が
ひどくなっているらしい
ひとのアタマが考え出そうとした
構造とか
統一とか
効果とか
そんなものはどれも
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

 

 

 

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