おぼえておく人

 

野上麻衣

 
 

くらす人は
いつも記憶があいまい。

さいしょの頃は
わすれちゃった、
とばかりいうので
嘘つきなのだと思っていた

だからみるのは、からだだけ。

はじめての山の夏。
窓にクワガタやってきて
夜のみどりにつれだされる
よっつの耳がきいた
にぎやかで、
やわらかな、陽のない庭

からだにその夜をたずさえて
声をめぐり、
息をつなぎ、また次の夏。

おぼえている人がいるから
ぼくはわすれても、いい。

 

 

 

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