雨はかぎりなくすばらしい

 

駿河昌樹

 
 

     そのとき、
     「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」
     と言う声が、天から聞こえた。
                 マタイによる福音書3-17

 

見ていると
雨は
かぎりなくすばらしい

この星に来て
からだを着てからは
大人たちから
雨はよくないものと教え込まれ
濡れると拭かなければならないと教え込まれたし
傘もなしに外に出て行けないので
めんどうで憂鬱なものと教え込まれたが
そんなことを教え込む大人たちから距離を取り
そんなことを教え込まない大人にじぶんがなってみると
雨はめんどうでも
憂鬱なものでもなく
ちょっと濡れても
そう神経質に拭く必要も
べつにないもの
とわかった

大人にじぶんがなってみると
雨をめんどうで憂鬱なものだと教えた大人たちは
ものの無限のうつくしさやおもしろさを感じとれない
ごくごくつまらない種類の大人たちだったと
わかった

子どもと呼ばれた頃のわたしは
ほかの誰でもなく
いまのわたしにこそ育ててもらいたかった

見てごらん
雨は
かぎりなくすばらしい
めんどうでも
憂鬱でもないだろう?
からだが冷えすぎなければ
ちょっとぐらい
濡れたって大丈夫
椅子やソファをすこし濡らしたって
大丈夫

何十年も前のわたしに声をかけ
わたしはそう教える

かぎりなくすばらしい
雨のなかへ
濡れるのも気にせず
こんどは
もうすこし自信を持って
何十年も前のわたしは出て行くだろう
雨をめんどうで憂鬱なものだと教える大人たちに
きっと怒られることになるだろうが
ものの無限のうつくしさやおもしろさを感じとり続けようとする
いまのわたしへの道を
彼は歩み出そうとするところだ

 

 

 

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