母の習いごと

 

道 ケージ

 
 

門司の県営アパートでは
習い事はしていなかった
と思う
ペレスプラードを聞いたり

宗像に引っ越し
料理教室
変なおかずや
妙なお菓子が
小学校から帰ると
カゴ皿に並ぶ

箱入りがいいのにの
呟きを抑え

次はお謡いだったか
角の杉本さんちにいく
椿の垣根繁く
こけし飾る
お座敷で練習

黒地に金模様の謡本
表紙と草書に惹かれた

刺繍を始めたのはいつ頃か
すぐに
家の中が刺繍だらけ
丸枠のネジを締める係
トレペカバー
コースター
鳥と犬と花
物語はないの?

習字は大学に行った頃
父と二人暮らしのはず
段持ちで漢詩まで書く父に

草書でサラサラと
何を流した
東京への手紙は
読めない

短冊の月並み俳句
さくら、月、つつじ
花鳥風月を丸めて

父の死んだ後は
習い事はなかったのか
庭で菜園
野良猫に餌をやる

縁側から落ちもして
教えずに教えてきた

今、また教えるつもりなく教える
こうやって死んでいくんよって

曲がった指では
何も指させないけれど

 

 

 

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