佐々木 眞
第31変奏曲
世界最高級のヴァイオリニストとして、内外の尊崇を浴びている彼だったが、いくつかの有名曲を絶対に手掛けないのは、それを弾くと、おのれがただちに死んでしまうと知っているからだった。
第32変奏曲
長針が12時にやって来た時に、おらっちがしっかりつかまえたので、時計は無事に元に戻ったのよ。
第33変奏曲
家族全員が出かけて私しかいなかったとき、もう若くないピンクのラバースーツを纏った女がやってきて、「もうすぐ地球に大洪水が起こるから、これを買っといた方がいいですよ」と勧めたが、「わしはまたノのアの箱舟に乗るからいいや」と断った。
第34変奏曲
マイナカードによるAI検索で、リベラルないしは反権力派と見做されると、ただちに警察の特殊部隊が派遣され、有無を言わさず検挙され、徹底的に拷問された挙句に抹殺されるのだった。
第35変奏曲
報国寺の裏道を歩いていたら、川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのかと思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。
第36変奏曲
そとほり姫を決して陸地にあげないよう、あらかじめ取り決めてあったのが、幸いしたようだった。
第37変奏曲
ノーマ・カマリの超ミニスカートが超セクスィーなので、あれを履いてみせてよと頼んだのだが、言下に断られたので諦めていたら、ある日それを履いて会社にやってきたYOKOが地下鉄の上のモンローのやうにしゃがんだので、クラクラしたのよ。
第38変奏曲
打ち上げ失敗が相次ぎ、仕方なくおらっちは愛する虎の子の女性宇宙飛行士を最後の有人ロケットに搭乗させる羽目になったので、管制塔の秒読みが気になって気になって仕方がないのです。
第39変奏曲
日曜日が来るたびに、僕らはいやいやながら、教会へ行かされた。僕らはやけくそになって、「ニチヨオサンビテエー、ニチヨオサンビテエー」と怒鳴りながら、仕方なく教会へ行ったんだ。
第40変奏曲
社長の私が留守中に、私のダミーのAIの評判を聞いたら、当の私よりも高く評価されていたので、だからAIなんて信用できないんだと確信した私は、彼奴の首を引っこ抜いて滑川に投げ捨ててしまった。
第41変奏曲
うちの町内会長はすぐに酔っぱらうのだが、酔っぱらうと、すぐに巨大なマサカリを振りかざして町内の家々に乱入するので、住民は怖れ慄いていたのよ。
第42変奏曲
ド・クインシー公爵は、昔白いドレスの若い娘の後ろ姿をみて突如ムラムラし、背後から抱きすくめてまるでさかりのついた雌雄の犬のように交尾したのだったが、20年後に自分の隣に優美に微笑んでいる公爵夫人が、その娘だったとは我ながら信じられなかった。
第43変奏曲
頭の中では何でも考えていいけれど、それをなんでもかんでも書いてはいけない。
第44変奏曲
ウンノ家を護っていた生き神様が、大火事で焼けてしまったので、ウンノ家は、運が尽きたようだ。
第45変奏曲
私が自閉症の長男と共にゆったりと暮らしている限り、たとえ全世界が崩壊しようとも、浮世離れしたかけがえのないしあわせを享受することが出来る、と思うのである。
第46変奏曲
戦争で殺されることのない日常を、サンアドの葛西薫氏の表現を勝手にお借りして表現すれば、「一日一日が、大切で宝石のよう」に感じるのみなのだ。
第47変奏曲
世界中でどんどん人が死んでいくが、おそらくこの国ではおらっちだけがいつまでも死なないで生き残るだろうという噂が一部で流れていたようだったが、意外にもあっさり死んじまったようだった。
第48変奏曲
今日は朝から快晴で、死ぬのにもってこいの日だ。