佐々木 眞
おらっち、三年寝太郎、改め三十年寝太郎。
ついこないだまで暑くて、暑くて堪らなかったのに、いまはもう寒くて、寒くて堪らない。
人間なんて、おらっちなんて、勝手なものだ。
「そうだ、ペルルに行こう!」
と龍宝部長が叫ぶので、みんな仕方なく西武新宿線の鷺宮にある井口君がやっている小さなバアへ行った。
アルコールなんぞ一滴も飲めないおらっちは、なぜだか寒くて、寒くて仕方ないので、井口君の奥さんが出してくれた2枚の布団を上からかけて、まるでヤドカリみたくソファーに横たわっていると、
「おらおら寝太郎、そんなとこでなに寝てる。今度は銀座の太牙へ行くぞ。荷風散人がやって来る頃だ」と、今や酒呑童子になっちまった龍宝部長が、ジャック・ダニエルをラップ飲みしながら叫ぶのだ。
荷風散人なら仕方がない。
もしかすると、30も年下の、花も恥じらう美人妾のお歌さんの、花のかんばせを拝めるかも知れん。
と思うと、可笑しなもので、おらっち、げんなり困憊した皆の衆の先頭に立ち、帝都タクシーを呼び止め、意気揚々と乗り込んだが、お目当ての太牙には、お歌嬢どころか散人の姿さえ欠片もなかった。
おらっち、しょうがないから、太牙の支配人から借りた2枚の布団を頭からかぶって、まるでヤドカリみたくソファーに寝そべっていると、そのまま3年どころか、30余年も眠りこけてしまったらしい。
んで、突出する陰茎が宝石箱を蹴飛ばしたようなある朝、いと爽やかに目を覚まし、あたりを注意深く見まわしてみると、今井専務も、龍宝部長も橋本&今中両次長も、前&若林両課長も、前田夫妻も、青木夫妻も、永原さんも、柿崎さんも、金原さんも、矢島さんも、
善太郎君も、安永さんも、酒井君も、毛塚君も、その他大勢のリー(ウー)マン諸君も、みんなみんな姿を消して、もちろんあの憎々しい金髪大統領も、軍事オタクの裏金党首さえも、全国各地の原発や米軍基地と共に、姿を消していたのよ。