オフィーリア

 

佐々木 眞

 

 

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今朝、死体を見た。
滑川の橋の下の魚たちが大好きな窪みの上で
それは、冷たい水に浸かっていた。

昨日白鷺の夫婦が、長い首をつんつん動かしながら
ぎくしゃく歩いていた小さな川に
蒼ざめたマネキンのように、ぽっかり浮かんでいた。

かろうじて水面からのぞかせた顔は、蝋のように白く
半ば閉じられた両の眼は
昇り始めた朝日をじっと見つめている。

祈ろうとして胸を目指していた両の手は
その願いを果たせなかったらしく
水の面に掲げられて行き場を失っている。

それは英国の画家ミレイが描いた
水藻の間を流れゆくオフィーリアに似ている。
叶わぬ恋に身を投げた高貴な少女の最期の姿に。

あくまでも恋人の抱擁を求めようとして、微かに開いた口からは
いつかどこかで聴いた尼寺の歌が聞こえてくるようだ。
寿限無寿限無海砂利水魚と泡立つ音に合わせて。

しっ、静かに!
水底で黙って耳を傾けているのは、
午後の太陽をじっと待っているハヤの七人家族。

せっかちな翡翠は、青の残像を残して慌ただしく飛び去り
白鷺の夫婦は、小魚探しに余念なく
寝坊助の亀次郎は、長い冬眠からまだ醒めない。

 

 

 

オフィーリア」への2件のフィードバック

  1. 「半ば閉じられた両の眼は
    昇り始めた朝日をじっと見つめている。」
    ここのところ、いいなあ。魚や鳥たちに囲まれた状況の設定が素晴らしです。

    • 鈴木志郎康さま
      ありがとうございます。
      遺体が浮かんでいた滑川のには私が愛称をつけた鳥や魚がたくさん棲んでいます。
      人体の闖入は彼らにとっては思いがけない椿事だったと思いますが、しばらくすると温かく受け止めたに違いありません。ちょっとした仏涅槃図のように。

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