水のひまわり

 

萩原健次郎

 
 

民家の向日葵

 

水尾根、水脈が見える。この川の流域に広がる田畑に
流れている、ほんとうにひんやりとした水の流れや行
方を見つめてみる。叡山の、たくさんの行者である修
行僧が、あるときは、急登、急降の…………

…………
むらさきの さきの なすの
たねの わたされた 白紙の たたまれた ことばの

空0脈搏
静脈
空0脈管
山脈
空0命脈
乱脈

この民家の前を通るとき、なんだかそちら側に遙かが
見えるようで不思議だなあと思っていた。
季節ごとの小さな花が、絶妙なバランスで植え揃えて
あった。規則正しくではない。だからバランスと言っ
ても均整がとれているという意味ではない。

――わたしの住んでいる家の前の景色をこしらえまし
たという意味で、ある種の創意で、庭がしつらえられ
ていた。
夏になったから、目前にぱっと暴かれたかのように、
ひまわりが立っている。
そんな趣向を、その人は持ち合わせていなかった。

おばちゃん、死んだんやろか。
水の峰に、かすんだんかなあ。

そういうことをしらせにくるんだよ
空0
空0
打ち返してくる、静かなドラミング。

奥深いところでは、きんきんに凍えている。
地上に出て
きつい日差しに溶けて
なんだか、かすかな…………

ふるるるる、かちりん、しなに
しなに、しなん。ぴ、ぴ。ぴっぴん、

夏に、立っている。
黄色くなった人。

 

 

 

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