やっぱ、俺っち御免だぜ

 

鈴木志郎康

 
 

やっぱし、って
思っちまって、
俺っち、
「いや、違う」って、
声に出したっちゃ。

「やはり」って、明鏡国語辞典には、
「予想や予兆が事実とぴったり一致するという気持ちを表す」ってね。
「本来的な意見に立ち戻って発言するという気持ちを表す」ってね。
その気持ちが右往左往させられっちゃってね。
「いや、違う」って、
俺っち、
声に出したっちゃったってわけね。

やっぱしには、
前後のことがあるけんど、
俺っちには、そこがね。

アボガドを食べて、
りんごを食べて、
やっぱし、
アボガドがいいや、
てね、言えば、
りんごを否定するっちゃ。

つまりね、
俺っちが、
「やっぱし」って、
言っちゃったら、
何を否定したのかって、
何に戻るのかって。

やっぱ、
やっぱ。
矢張り。
元には戻れん、戻れんっちゃ。
元に戻しちゃいけないっちゃ。

でも世の中にゃ、
やっぱし、
幼稚園児に
教育勅語を暗唱させてる
幼稚園があるっちゃ。(注1)
やっぱ、
いやあな気分。
「チンオモウニワガコウソコウソウクニヲハジムルコトコウエンニトクヲタツルコトシンコウナリワガシンミンヨクチユュウニ(朕惟我皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ)」なんて叫んでるっちゃ、
ひどいねえ。
それで、
歴史を元に戻せるかって。
やっぱ、
安倍晋三総裁がテレビで言ってた
「日本を取り戻す」ってのを、
幼稚園児が叫んでるっちゃ。
「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改めて、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたしますよ。安倍首相頑張れ、安倍首相頑張れ。安保法制国会通過よかったです。」って、(注2)
幼稚園児が叫んでるっちゃ。
ひどいねえ。
やっぱ、
やっぱしって、
この幼稚園は先駆けだっちゃ。
やっぱ、
十年後には、
教育勅語幼稚園が、
幾つもいくつも生まれてるに違いないっちゃ。
やっぱし、
その幼稚園児たちが大人になって、
国家主義日本が戻ってくるっちゃあと違うか。
やっぱしねっちゃ。
気分悪いっちゃ。
個人の自由を奪う
国家主義日本は
御免だっちゃ。
俺っち、
七十三年前に、
考えも無く軍国少年されちまって、
集団疎開でいじめられ、
栄養失調になって、
親元に戻ったら、
戦災の火の粉降る中を逃げて、
生き残ったっちゃ。
歴史を元に戻そうって、
御免だぜ。
やっぱ、
御免だぜ。

ところで、
俺っち、
高齢で病身ながら、
三度のご飯を食べて、
平穏な毎日を送ってるっちゃ。
でも、
やっぱし、
個人の自由を奪う
国家主義日本は、
御免だぜ。
やっぱ、
御免だぜ。

 
 

(注1) 朝日新聞2017年2月28日朝刊
(森友学園の)この幼稚園は、戦前・戦中の「教育勅語」も園児に素読させている。映像によると、幼稚園の修了証書授与式で、園児が教育勅語を暗唱する姿が記録されていた。

(注2) 朝日新聞2017年2月28日朝刊
森友学園が大阪市内で運営する幼稚園の2015年秋の運動会の映像によると、代表園児4人が選手宣誓で、父母らに「褒めていただけるよう全力尽くします」と声を上げた後、「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改めて、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたしますよ。安倍首相頑張れ、安倍首相頑張れ。安保法制国会通過よかったです」と言っている。

 

 

 

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