夢は第2の人生である 第52回

西暦2017年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 


 

「マーサ製造所」という看板はいったい誰が掲げたのか? 「うどんそばを製造している我が家にはふさわしくないから、なんとかしろ」と、さっちゃんに迫るのだが、知らん顔してそっぽを向いているのだ。3/1

「なぜおれはなにをやっても成功するのか? それはおれが絶対に他人の真似をしないからだ」と、その男は吹きつける風に向かって叫び続けていた。3/2

ベンチで寝ころんでいる女の上を乗り越え、なおも進んでいくと、ストに参加した5、6人の労働者たちが、プラットホームに、マグロのように横たわっていた。3/3

部屋の中のニイニイが鳴き始めると、屋外のニイニイも、一斉にニイニイ鳴き始めたので、今年は豊作だと分かった。3/3

半年前に、渋谷でモザールの2台のピアノのための協奏曲を弾いていた青年と一緒に、同じ曲を演奏している。彼は「この半年間のことは全然覚えていない」というので驚いた。3/4

そいつは、私がつけた値段をコピぺしたものに、「?」マークをつけて、送って寄越した。3/4

我われは敵を見おろす高台の陣地にあって、一晩中篝火を焚いて警戒していたが、それは大平原の覇者と称されている敵だけに、一瞬の油断も許されなかったからだ。

アライサの元芸人は、ブースの中に一室を与えられていたが、特に仕事はなさそうだった。私がシエラザードのビデオをつけると、珍しそうに眺めていたが、お互いに一言も交わさずに別れた。3/5

そのホテルの支配人は、「うちでは1年間どんな忘れ物でもお取り置きしてあります」と言って、様々な貴金属や本やカバンを見せてくれた。3/6

展示会では、5社中2社からのサンプルが間に合わず、バイヤーからクレームが殺到した。3/7

サルマ川に着いたのは、もう夕方だったが、急激な引き潮の余波で、浅瀬には無数のバルウオがバチャバチャと跳ねまわっていたので、私らは手当たり次第に収穫して、晩御飯のおかずにした。3/7

久しぶりに7人の妾を夜の友としようと呼び出しをかけたのだが、誰一人としてやって来ないので、7軒の家を訪ねて、次々にベルを鳴らしたが、誰も出てこない。きっとどこかで7人で談合しているのだろう。3/8

予約しようと思って帝国ホテルへ行ったら、どういうわけだか、フロントに大勢の子供たちが列を作って並んでいたが、夜になると、子供もフロント係も、お客も、誰もいなくなった。3/9

夏の夜、体育館でブラブラ遊んでいると、誰かが「このパンツを、あんたに穿かせてやろう」と叫んだので、私は「僕は嫌だ。Tに穿かせろ」と言いながら逃げ出したが、とうせんぼしていたY子が、私の胸をドンと突いたので、私はその場でひっくり返ってしまった。3/10

空を眺めていると、世界中からタイキ者がやってくる。何をなぜ待機しているのか知らないが、アルゼンチン、アメリカ、イタリア、ウクライナ、ウズベキスタンのアイウエオ順で、世界中からタイキ者がやってくるのだ。3/11

アマゾンのタイムサービスで、私は一瞬の隙をついて、日本列島全域の不動産を買収してしまったのだが、その翌日から資金繰りで七転八倒することになってしまった。3/12

河出の文学全集の欠本をアマゾンで検索したら、なんと7億円の超高値がついていたので、これは妙だなと思いつつ、こないだの宝籤で7億円を当てたばかりの私は、ひょいとクリックしてしまった。3/13

自室に戻ると、数人の男女が談笑しながら煙草をふかしていたので、私は激怒して「お前たち! いったい誰の許しを得て入って来た。ここはおらっちの部屋だ。即刻出ていけ!」と怒鳴ったのだが、彼らは知らん顔している。3/14

九龍ホテルに連泊している私の部屋には、毎晩見知らぬ客が訪れたが、ある晩電通のフルカワと名乗る男から、私は2本のラジオ・ドラマの脚本を依頼された。
しかし私は生まれてこの方、ドラマのシナリオなんて書いたことがないので、はてどうしたものかと、悩みに悩んだ。3/15

下宿のおばさんは、万年床の少女探偵にほとほと愛想を尽かしていたが、かといって彼女を追いだそうとはしなかった。3/16

建築業界の若きボスとなって君臨しているかのように世間では噂されている私だったが、しかしてその実態は、若い妖艶な情婦の言いなりになる男奴隷なのだった。3/16

死の床に就いていた老将軍は、私を招いて遺言しようとしていたが、そうはさせじと悪代官がうろちょろするので、私は酸欠状態の金魚のように口をパクパクさせている将軍の枕元に、なかなか近づけないでいるのだった。3/17

「ウスイと申しますが、キョウセンさんはいらっしゃいませんか?」という声がした。
すると路地の奥から声がして「おや、あのときのウスイさんですか。あれは10年前でしたね。でも昨日のことのようによく覚えていますよ。今日の出物は何ですか?」
という声が聞こえた。3/18

中国へ飛んだら、大きな変化が起こっていた。それは「情から無情」ということで、まさしくこれこそが、かの国の政治経済社会に決定的な影響を及ぼしていたのである。3/19

久しぶりに春闘で満額回答を勝ち取ったというのに、米原産業の労働者諸君に喜びの表情はこれっぽっちも見えなかった。みんな安倍蚤糞の所為だった。3/20

私が眼を瞑っていると、耳元で「センセ、ワダエミのこたあ、もうお忘れになったほうがよござんすぜ」という男の声がした。
ワダエミって誰だろう? 眼を見開いた私は、早速検索してみようと思ったのだが、あいにくどこにもPCなど見当たらなかった。3/21

満月の光に煌々と照らしだされて、真昼のように明るい大空の彼方から、突如巨大な惑星が大接近してきたので、驚いて見詰めていると、その惑星から打ちだされた無数の岩石が、我が家に押し寄せてくるので、私は妻子ともども、命からがら逃げ出した。3/22

銀座で4人でお茶していたら、紅一点のイラストレーターのカワムラさんが、突然「あなたたちは男根の世代なの?」とよく通る声で叫んだので、われわれ男どもは、手に持った紅茶のカップを、思わず取り落とすほど動揺した。3/23

昔のDurbanの服を着てみたら、思いのほか塩梅がよかったので、「なかなかいいなあ」と呟くと、そんな私をじっと見つめている女性がいるので、誰かと思ったら、もうとっくにこの世の人ではないコンドウ嬢だった。3/24

新書館と打ち合わせをするために、原宿の竹下通りを歩いていた私は、突然アオキ嬢がいなければ行っても無駄だと気付いたので、急いで会社に引き返そうとしたのだが、歩いている途中で、自分はいったいなんのために引き返すのかを忘れてしまった。3/24

生死を賭した菊人形劇の最終番で、私はコースを外れてしまったので、途方に暮れている。果たして本来の道筋に戻れるだろうか。3/25

そこはまことに夢のような楽園であったが、私は涙を呑んで、泣く泣くそこから立ち去らねばならなかった。3/26

犯人の井桁の紋どころの男は、どさくさまぎれに逃げ出そうとしたが、私が背後から首をギュッと締めたので、ようやく大人しくなった。3/27

「カルメン」でドンホセを歌った私は、カーテンが降りるや否や、気を失ってしまったが、劇場全体を覆い尽くす「ブラボー!」で意識を取り戻し、一緒に手をつなごうとカルメンを探したが、どこにも見つからなかった。3/28

昼飯を食おうと思ってパスタを注文したら、ぬあんと真っ白な肩を出した白雪姫が、席まで運んでくれたので大喜びしたのだが、白雪姫ときたら、真っ赤な唇を開いて麺を1本ずつおいしそうに吸い込んでしまうので、「僕にも早く呉れよ」と催促したのだが、彼女は皿を持ったまま引き返してしまった。3/31

 

 

 

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