ステロイド眼科

 

塔島ひろみ

 
 

ステロイドが診察を待っている
隣りに座った私を見て
素適なロウケツ染めね、と褒めた
ステロイドは涙が止まらない眼病にかかり
すべてがぼんやりしてよく見えない
あなたが誰だかわからない
瞼が腫れた醜い私を、ロウケツ染めだと思ったのだ

瞼が腫れて痛いんです、ステロイドをください
みどり先生はぎゅっと、私の目を押す
ステロイドをください
私の目を潰す

ステロイドが入ってきて、隣りに座った
みどり先生はステロイドの涙に濡れた眼球を押す
ドクドクドクと、生温かい液体が眼窩から漏れ出る

「ほら、ウミだ」

救いながら、踏みつけてつぶす
つぶれたものの顔は
見ちゃいけない

救いたいから、ステロイドは
涙で自らの視力をつぶすのだった

ステロイドが泣いている

ステロイドをください

ステロイドが高原を走っていく
助走をつけて空に突き刺さる

みどり先生はステロイドを床に叩きつけて、私の目を押す
私を押さえつけ、口から、目から、滝のようにステロイドを流し込む
私の紺色のブラウスはドロドロに汚れ、私は裸足で独りぼっちだ

瞼の腫れがひき、涙があふれた
何もかも薄ぼんやりして、あなたが誰だかわからない
鏡を見ると、私は素適なロウケツ染めだ

生温かい海にぷかぷか浮かんで
見上げると空から、ステロイドの合唱

アルトで合わせる

 
 

(2018年5月18日、熊谷眼科にて)

 

 

 

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