涛瀬チカ改め神坏弥生
昼下がり、ふと目が覚めた
部屋の外で風の鞭打つ音がする
繰り返し聴こえている
嵐でもないのに強い風が吹き
窓の外を見ると
削られた土手の上に大木が並び
強風に揺すられている
私は、風の行方を知ろうとした
窓から見る大木は
木々の葉と枝をゆすり
木の葉が、光り揺れている
外に出て、歩く
見事な晴天が広がる
青く青く、高く高く、広がってゆく空
削られた土手を登ってゆくと
葉のきらめきは高く昇った太陽だと知る
土手を超え下りてゆくと
赤土の地面が広がり
低木や竹藪が続き
強風に煽られ
しなり、木の葉をざわめかせる
時折、風が止んでさわさわと少し聴こえ
また、風が吹き
風が私をなぞるように耳や頬や顔に沿って、後から私へと流れ
通り越してゆく
坂を下りてゆくと
海の匂いが鼻腔をくすぐる
水平線が見えて
汽船が、汽笛を鳴らし、渡る
強い南風に背が強く押され
歩くのがもどかしい
夏の終わりの日差しがやわくつよく照りつけ
向日葵が海を向いて夏の終わりに
名残を惜しんで別れを告げる
向日葵と私が並んで海を臨む
振り返れば山荘や民家が立ち並ぶのが見えている
そうだ、風は山から吹き下ろしているのだ
誰もいなくなった海辺に
私、独り立ち尽くし、沈黙する
波打ち際に打ち寄せられた
命無い貝殻や丸く波に削られた色んな色のガラス
風の行方は眼の前にある
カモメがつがいで高く飛びくるくると旋回を続けて鳴く
砂
浜で空を振り仰ぐ私
空に俯瞰する二羽のカモメ
解き放つ 私を 風と共に
海へ
風が海を渡ってゆく
私は、長い間海辺に立って
水平線を見ていた
風の行方を