夢は第2の人生である 第62回

西暦2018年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

私は、近づいてきた極右ファシストの独裁者に向って、拳銃を右手で握って、顔面など数か所に弾を撃ち込んでから、ゆっくり引き揚げたのだが、彼奴は死んではいなかった。
どうやら、いつものように左手で撃たなかったのが、災いしたようだ。1/1

私は、細長い筒の奥底に閉じ込められてもがいていたが、誰かが筒を逆さまにして振ってくれたので、勢いよく外に放り出されたが、その時には誰の姿も見えなかった。1/2

オフィスビルの荷物を積んで、他の業務用エレベーターに乗り換えようと、やってきたエレベーターに台車を突っ込んだら、妙齢の美女の美しい膝を傷つけたようで、そこから2、3滴の鮮血が迸り出たので、私はうろたえた。1/3

この百貨店では、エスカレーターの代わりに、クルクル回転する耕運機のような機械が取り付けられていて、客は、それに乗って店内を移動するのだった。1/4

「では行きますよおー」、といいつつ、ピッチャーが投げた豪速球を、私がハッシと打ち返すと、ボールは、空の向こうに消え去ってしまった。1/5

ホームレスの僕は、無人の百貨店の家具売り場に、年が年中寝泊りしていたものだから、そこを舞台にしたコマーシャルを製作したら、どこが良かったのかさっぱり分からないが、あっという間に、全世界で爆発的にヒットしたみたい。1/6

右の腰が痛くてたまらないので、医者に行ったら、「いま米国で人気のYaYaYaとかいう若手鍼師が来ているので、よかったら試してみませんか?」と言われて、はてどうしたものかと迷っている。1/7

彼女が、来日以来貯めてきた大事な物が格納されている、巨大な「当て物箱」から、私は、籤引きでいろいろな貴重品をひきあてたが、それらは、いずれも10万円を下らない代物だった。1/8

ニシノマキという歌人が、我が家に遊びに来て、「○○元年、帝国は某敵国と交戦状態に入れり」という大本営放送の録音テープをほしい、というので贈呈したが、この○○という名辞が、平成に続く元号であったことに、後になって気づいた。1/8

ここはおそらく、視察に来たタイのバンコクではないか、と思われるのだが、言葉と現地事情に通じた相棒のヤマサワ選手が、いつの間にかいなくなってしまったので、取り残された私は、どうしようもない状態で、地面にしゃがんでいる。1/9

連続殺人事件で夥しい血が流れたので、国鉄当局は、新幹線の全車両のカーペットを取り替えることにしたのだが、その新しい敷き物は、駅ごとに待ち構えた窃盗団によって、ごっそり盗まれるのだった。1/10

私は東京駅でコウ君が現れるのを、ずーと待っているのだが、いつまで経っても姿を現わさないので、そこら辺をうろういていた男のケイタイを拝み倒して借りて、連絡を取ろうとして、はじめて私も、ふだん使ったことがないガラケーを持っていることに気づいた。1/11

巨大な十字架の上に磔にされたまま、人々は昇天せずに、何日も何日も生きながらえていた。これを奇跡と言わずに、なんと呼ぶのか。1/12

展示会場からクマガイ・トキオが丹精込めた一足を、悪評紛々の安倍蚤糞夫人が搔っ攫って逃亡したので、係り員たちは、ほうぼう探し回っているが、まだ見つからない。1/13

今季の東コレは、なんと夜10時からの開催で、しかも3つの有力ブランドがかちあっているので、いたく動揺している編集者たちに向って、さる男が「ふぁちょんなんて、所詮遊女と游治野郎のものだね」というたので、みな笑った。1/13

「算数の悪魔」と称される醜女がいて、数学や算数にてこずったときに呼び出すと、すぐさま駆けつけて、なんでも代わりにやってくれるのだが、その見返りに、悪魔のような性愛を要求されるので、少年たちはたいそう悩んでいた。1/14

イマイさんが、「こないだ買ったイオンの株が、なんと40倍になった。突然大金持ちになっちゃったよ」という。周りの人たちも株で大儲けして、大喜びしているのだが、私だけは、バブルから取り残されているようだ。1/15

天敵を探し出す仕事は、神様から天罰を蒙る恐れがあるので、私は、いくら人から頼まれても、首を縦には振らなかった。1/16

なにしろアマチュアオケのことなので、一時は聴衆もプリマドンナも、指揮者も、楽員までも逃亡する始末だったが、コンマスの私が、大声をあげて叱咤激励したので、「ドン・ジョバンニ」の公演は大成功だった。1/17

彼女と私がようやくテレ朝までやってきて、上りのエレベーターに乗ると、そのベルトに乗っていたすべての人間が、私たちと溶解して、巨大なアマルガムになってしまった。
これを微分積分して元に析出するには、どうしたらいいのだろう?1/18

その曰くつきの女から、「あなた、これからどこかへ連れて行ってくださるわね」と、背中越しに声をかけられた私は、思わずゾーッとして、気が重くなってしまった。1/19

彼我の取り分は3分の1ずつ、と決まっていたにもかかわらず、彼奴は3分の2近くを掠め取っていたことが分かったので、私は頭に来た。これでは民草の取り分が無くなってしまうではないか。1/20

私は上野で展覧会をみようと思って、上京してきたのですが、途中で巨大な樺太犬を捕まえたので、そいつに跨って進んでいくと、コシアカツバメの一家5羽が、帽子の中に飛び込んだので、大事に抱えながら、銀座通りを進んでいったのでした。1/21

戦争が始まったので、某国の日本人地区に住んでいた邦人たちは、みんな帰国してしまったが、どういう訳だか私だけは、そのままずるずると滞在を続けていた。1/22

某国の国民議会では、自分の代理ロボットが出席して討論を行い、評決の代行もできる議案が堂々とまかり通ってしまったので、議員全員が驚愕しているそうだ。1/23

いよいよ戦端を開こうとしていたら、両軍の眼の前を弁当屋が通りかかったので、3日3晩何も喰うていない兵士たちは、武器を投げ捨て、塹壕から飛び出して移動販売車に群がった。1/24

絶望に駆られたその男は、凍結した冬の川に飛び込んだが、死にきれず、いつまでもおめおめと生きながらえている。1/25

ホテル・ルックを出たアリサ嬢は、私が後をつけているとも知らずに、大通りに出て、別のホテルに入り、見知らぬ男と立ち話をしている。1/26

一晩中、風呂の奴が、凍結から身を守ろうとしてガスを燃やすので、うるさくてかなわない、という話を、みんなにしてきかせた。1/27

これは下駄の「てらこ」、これは松下表具店、メリー洋装店、これは火星社書店、と次々に昔の郷里の光景が鮮明に再現されたが、次の瞬間、その懐かしい映像の上から、最新型のガラスの現代建築が圧し掛かるように突き刺さった。1/29

町内の住民の一部が、ネコ型ロボット症候群に罹災した惧れがあるというので、町内会長はパニックになっている。1/30

無人島に追放された犯罪者たちは、牢屋の中から、私たち看守が毎日のように楽しんでいるポーカーの仲間に入れてほしくてたまらないようだが、そういう親切なぞ、誰一人持ち合わせてはいなかった。1/31

 

 

 

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