覚醒しては眠る果実という種子

 

神坏弥生

 
 

夏の日の午後

突然、読んだ詩歌によって

垂直に伸びた日を臨む

向日葵になって

もう沈んでしまう

下弦の月が、朧に浮かぶ

ぽっかり空いた穴の中の

拙い原語の夢の続きを、追おうと

暗がりに暗転するのを繰り返し追いかける

きっと知っているんだわ

と、この夢の倫理性を求めてみても

繰り返し、繰り返し、

繰り返すことによって

忘却の彼方へとなだれの様に流れ

意識は薄れてゆく

白百合が奔放に、

まだたった今咲いたばかりの未熟な

雄しべを伸ばし、外では陽炎が立ち上る間

あなたを待つ

あなたを迎え入れようとするとき

寡黙なあなたを微細に感じて

暗闇の中、闇に慣れた眼が

室内に、眼を開き沈黙する

窓辺に差し込む光の陰影の中

私の指が、彼を求めては、背に縋りつく

時に、長い爪によって、傷つけ嫉妬を刻もうと

いつかなくなってしまう私たちの隠し部屋は

いずれ、互いの罪による檻に変わりゆくかもしれない

あなたが誘惑という、罠を仕掛ける間

街の一切の雑音は止んで

私達が唇を押し当てて、時間がとどまっている(?)

選ばれた互いの危ういバランスと要素の各々が

私達が哀しく、喜び、確かめ合うのを

人肌に暖かい抱擁や口づけを要素として

束ねられる

たとえ果実という種が実っても実らなくても

暗がりの内密から外へと向かって

満悦が広がってゆく

悦楽の果実はやがて豊満に熟し

鳥たちが、果実を食べ、種子は落ちて

私達が産んだ密やかな種子は暗闇の可視光線の中

目覚め、また再び沈黙する

 

 

 

舟を出そう

 

橘 伊織

 
 

舟を出そう

東へ

薄青の空に溶けゆく星 ただ誘うままに

舟を出そう

緩い風 この頬を嬲る朝に

舟を出そう

なんの艤装すらせず

舟を出そう

時だけが徒に 遠い記憶へと移ろうまでに

舟を出そう

はるか昔の遊牧民の歌 微かに唇に遊ばせ

やがて風が 真白き帆を孕ませるなら

舟を出そう

骸たちが眠る 名もなきあの島へ向けて

 

 

 

空中に浮かぶ傘

 

神坏弥生

 
 

家を出ると外は雨だった
僕は傘を差し歩いた
駅へ行き
発車間際の列車に乗り
座席はいっぱいで
つかまって、立っていた
しばらくして車窓を見ると
雨が上がっていた
「見て!虹よ!」
車窓の向こうに大きく東から西へと
路線に向かって虹がかかっている
列車を下りると
また雨が、降りだしている
傘を差し、街へと向かう
UMBRELLA
とドイツ語訛りの男の声が聞こえた時
一斉に虹の向こうへ、街中の傘という傘が全部、飛ばされたことに気が付いた
気付けば街中を
行合い
向き合い
行き交う人々の
全ての色んな色や模様や絵柄の傘が
空中に浮かんでいる
その下で、人々がパイプをふかしたり、お茶を飲んだり、ダンスを踊ったりしてくつろいでいるのだ
雨のない夏を思わせる
たくさんの傘が、雨を遮断し滴ですら落とさず支えているのだ
雨音だけがしばらく聞こえていた
雨が上がってゆくとすべての傘は、空高く吹き上がっていった
街にあふれていた人々はもう誰もいない
僕だけが街の中に居る
空から僕の傘が降って来た
あおむけに開いたまま転がっていた
雨上がりの空
もう虹は見えない
夕日のない曇り空が暗くなってゆく夕刻
また、予感している
雨が、降ってくるのを

 

 

 

ラーメン店にふらっと来る

 

神坏弥生

 
 

仲間と飲んで、歌って最後の盛り場を出た後
深夜1時半からしか開店しないラーメン屋がある
ラーメン店に来たのは夜中、一時半だったな
店主はカウンターの暖簾に隠れて顔は見えないが
白い制服と二の腕と手が見える
「閉店は何時だ?」
と、尋ねるとぶっきらぼうに太く低い声で
「3時」と答える
赤い暖簾が目印で白くラーメン店としか書かれていない
「おまちどぉ。」
カウンターからぬぅーとだした腕先の手につかまれたラーメン鉢には、なるとやチャーシュー、シナチク、ネギが等がのっており
湯気は有るんだが、
酔いのせいか記憶がない
憶えてんのは、あのラーメン店の店主が
さっとラーメン鉢を下げて店の奥に引っ込んじまった
で、辺りを見ると三畳一間の下宿に居るが、布団は無い
こんな時間だが、知り合いの親しくあの界隈に詳しい奴に
「あそこにラーメン屋ないか?」
と尋ねても、「そんな処に、ラーメン店は無い。それどころかそこで昔、人が死んだんだよ。おまえさぁ、終電ぐらいまでに帰れよ。こんな話なんだけどな、夜見のものを食ったら帰れんて知ってるか?」
恐ろしくて、黙って電話を切った
窓から夜鳴きそばのラッパ吹きの音がする
窓を開けても姿形もない
「俺は、どこに居るんだ?!」
今晩当たり、あの夜鳴きそばのラーメン屋のラッパが聴こえてきたら、潮時だ
夜見のもん食っちゃねぇ。
帰ろう帰ろう、あーさぶいっ。
終電のドアは閉まった
終電の終わった時間に、

 

 

 

ろくでなしの墓 亡くなったカミュへ

 

神坏弥生

 
 

明け方俺は、奴を殺し、早朝、ほの暗い街を飛び出しいた
家へ帰ると、妹が自殺していた
ただ混乱した頭をどうしようもなく
喪失してしまったものを探しながら
列車が来るのを待って衝動的に切符を買い列車に乗った
駅前のカフェしか店もそれ以外は無い
黄土色の堅い大地が広がり時折一陣の風が吹いて
黄色い砂埃をあげる駅で降車した
カフェの扉は開いたまま、JAZZなどが静かに流れている
だが怒りは尚、俺の内側から噴煙し噴き上げる
俺の中に居た大切な者の為に怒り狂い固い大地を歩いた
俺を残して死んだ妹を、俺を独りにしたことを憎んだ
俺に「愛している。」などと嘘をついた者を憎んだ
愛していないのに下手な甘い言葉で「捧げる。」などと言ったことを
憎悪した
荒地の中で全ての存在を光々と照り付けて
証明づける太陽を憎んだ
おれを独りにしたことを怒りと憎しみのまま、
太陽に向けて大声で叫んだ、
「殺してやる!」と
朝日の来ない暗がりの中で独りつぶやいて、書き留めておきたかった
俺を、孤独にし独りぼっちにした存在していた全てを憎んでいた
ただただ、砂だらけになって泡を吹きたくても吹けない口と髪や衣類の中も
砂だらけになって
飢えと渇きにより彼は倒れた
彼は、野たれ死んだ
ろくでなしの一生とともに
一生を終えるに、それほど時間はかからなかった
ただ愛するものの喪失を憎めばよかった
「愛している。」が狂気に変る瞬間に
彼は憎いと怒り、死ねない自分をあがいた
彼は憎しみの裡に絶望し
息絶えて
黒く干からびていった
彼の骨を拾うものはなく
墓を立てた者はいない
黒く焼けた骨だけが一陣の砂風にさらされている

 

 

 

WE NEED THE GUITAR

 

神坏弥生

 
 

風が吹いている
鳥が鳴いている
右の掌を空に上げたなら
人差し指を立てて
指のアンテナで音波を掴む
僕たちが話しやすくするために
僕たちは、メロディを要する
我々に、ギターが必要だ
我々に、ギターが必要だ
我々が、ギターを弾いて
謳うように、話し
話すように謳い
時に黙るために、風が渡ってゆく
大地に、根を生やした樹々が
風によって枝を揺らし
木の葉たちの、しばしのざわめき
我々にギターが必要だ
我々にギターが必要だ
我々に音楽が必要だ
我々に音楽が必要だ
(願わくば、どうか我々に)LILICPOESYの星を

我々に歌が必要だ
まだまだ、まだまだギターが必要だ
まだまだ、まだまだ歌が必要だ
言葉をかき鳴らし、言葉をはじいて
大地を打ちつけるつもりでドラムを打ちながら
歩いてゆこう

言葉を空に放つつもりで、
空に映る初めの星の声を聴こうと
夜、夜空に、耳を傾けながら

Liycby yayoi kamituki

 

 

 

閃光

 

神坏弥生

 
 

閃光は外側からやって来る
照りつけた 昼間の日光
切り付けた ナイフの反射のように
暗い私の体の中へ
閃光がひらめき
体内から
どくどくと流れ
体の涙みたく
血液の海
君は死に切れないまま
君が捨てた
君を知る
友人が涙を流し
天がそれを許した時
雨が降るかもしれない
明日、天気になるといい

 

 

 

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ロックが欲しいのに

 

石川順一

 
 

ロックが欲しいのに
岩ばかりがやって来る
もっとロックのシャウトが
欲しいのに岩ばかりが蓄積する
南無阿弥陀仏の父の実家
南無妙法蓮華経の母の実家
門の怒りが江戸時代を象徴して居るのか
剣を抜いて精神を統一する
パーなのはつるぎの心か
左手の人差し指を置いた後頭部の位置に
出来物が出来る
今日は体育祭だった
やっぱりロックが欲しいのに
岩ばかりがやって来る

 

 

 

入院記

 

須賀章雅

 
 

墓参りに行かなければならないと考えていた。田舎にある父母の墓へ一度線香をあげに行かなければなるまい。最近のわが不調、この数年の低落ぶり、没落ぶりは長いあいだ両親の墓を放ったらかしにして荒れるにまかせてあるのに起因するのかもしれぬ、もとより信仰心などなく、墓参りで人生がいささかなりとも上向くのであれば、一日無駄にするのも後々意味があると思うような恩知らずの親不孝者が一念発起、旅費捻出のために無理をして倉庫で日がな一日、ただ黙然と中身の分からぬ箱を積み上げる日雇い仕事をやり、入った徹夜明けの水風呂が良くなかったのか、左腕が痺れ始めたかと思うと胸に激痛が走り、それはこれまでの生涯でかつて経験した覚えのない甚だしい痛みであり、堪えているうちにさらに痛みは激しくなり、鏡を見ると顔は緑色の怪人に変身しており、とりあえず這いつくばりながら身支度をして思案にくれていたが次第に呼吸をするのも苦痛となり、墓参りはまたの機会にしてまずは現在のこの狂おしい症状から解放されんがために病院へ行ってみようと決心し、水槽の中でのほほんと眠る同居者、一匹のゲンゴロウに、ちょっくら行ってくるわ、と力なく挨拶してから真夏の午前の眩しい屋外へ出てふらふらと歩み出し、電柱に凭れかかりながら片手を挙げてタクシーを拾い、何処でもいいから病院へ一刻も早く、と頼んでシートに倒れ込んで目を瞑ったのであるが、今度は沸き起こる痛みのために、ぐおおお、だの、うえええ、だの、もももーん、だのという叫びが口から上がるのを如何ともしがたく、これはきっと死ぬ、自分の存在はこれで終わる、と覚悟をし始めた辺りに到着した病院では、七人のナースたち(後から知ったことであるが皆うつくしい女たち)に取り囲まれてたちまち服を脱がされ裸にされて、なぜか剥がされなかったTシャツを捲られ、胸部に線のついたあまたの吸盤を貼り付けられ、口中にスプレーを噴射されて、「口閉じて、鼻で呼吸して」と命じられるままにすると胸の痛みはなんとか収まってくれたが、今度はストレッチャーの上で剃毛され排尿用の管をぐりぐり押し込まれて、あまりの痛みと恥辱にのたうち廻って咆哮すると、ええい、静かにおし、男らしくなさいってば、と命じる女の声は失踪した妻そっくりであり、局部麻酔をかけられて、右脚の腿から血管を通じて心臓に達する管を挿入され、左腕に点滴の管三本、鼻の穴に酸素吸入の管を取り付けられた頃には意識が遠のいてゆき、かようにしてめくるめく入院生活が始まったのであるが、私は雪の夜を駆けるウマとなり故郷D市のクラス会へ出向いたり、花火の上がる夜の病室の窓に燃え上がり溶けるヒマワリになったりしてなかなかに多忙であって、中年の眼鏡をかけた蛙を思わせる医師が喜びを隠そうともせずに説明するには、私の症状は「詩的冠攣縮性狭心症」である由で、酒煙草はもちろんタブーであるが、あなたの場合は詩を書くことが心臓の冠動脈という血管に大変な負担になっている実に特異なケースで詩はもう止めた方がいいでしょう、と診断するので、そういえば生活を顧みずに詩などにウツツを抜かしているうちにいつしか妻もいなくなり、田舎へ墓参りの算段もつかなくなってしまったのであるよなあ、と柄にもなく神妙な気持になっているところへ、トマコマイにいる兄が父と母を連れて見舞いに現れ、昔はずいぶんと夫婦仲の悪い二人であったのになあ、と懐かしさも一入なのであるけれど、珍しい症例として今しばらくの滞在を医師から請われている詩を書く男は保険にも加入しておらず、かといって現金もなく、今回の支払額が如何ほどになるかを想像すると胸に鋭い痛みが走るのを覚え、それから今や唯一の家族と云っていい存在である孤独なゲンゴロウの安否が天井から下がる重たげな雲の中、にわかに気になってくるのだった……

 

 

 

風の行方

 

涛瀬チカ改め神坏弥生

 
 

昼下がり、ふと目が覚めた
部屋の外で風の鞭打つ音がする
繰り返し聴こえている
嵐でもないのに強い風が吹き
窓の外を見ると
削られた土手の上に大木が並び
強風に揺すられている

私は、風の行方を知ろうとした

窓から見る大木は
木々の葉と枝をゆすり
木の葉が、光り揺れている
外に出て、歩く
見事な晴天が広がる
青く青く、高く高く、広がってゆく空
削られた土手を登ってゆくと
葉のきらめきは高く昇った太陽だと知る

土手を超え下りてゆくと
赤土の地面が広がり
低木や竹藪が続き
強風に煽られ
しなり、木の葉をざわめかせる

時折、風が止んでさわさわと少し聴こえ
また、風が吹き
風が私をなぞるように耳や頬や顔に沿って、後から私へと流れ
通り越してゆく

坂を下りてゆくと
海の匂いが鼻腔をくすぐる
水平線が見えて
汽船が、汽笛を鳴らし、渡る
強い南風に背が強く押され
歩くのがもどかしい

夏の終わりの日差しがやわくつよく照りつけ
向日葵が海を向いて夏の終わりに
名残を惜しんで別れを告げる
向日葵と私が並んで海を臨む
振り返れば山荘や民家が立ち並ぶのが見えている
そうだ、風は山から吹き下ろしているのだ
誰もいなくなった海辺に
私、独り立ち尽くし、沈黙する

波打ち際に打ち寄せられた
命無い貝殻や丸く波に削られた色んな色のガラス
風の行方は眼の前にある
カモメがつがいで高く飛びくるくると旋回を続けて鳴く


浜で空を振り仰ぐ私
空に俯瞰する二羽のカモメ

解き放つ  私を  風と共に
海へ

風が海を渡ってゆく

私は、長い間海辺に立って
水平線を見ていた

風の行方を