西暦2018年如月蝶人酔生夢死幾百夜
佐々木 眞
台風が来襲したので、私は老女と娘が2人暮らしをしているナントカ家が、おおかぜで飛んでいかないように錨を打ちつけたが、烈風が猛威をふるってきたので、だんだん心配になってきた。2/1
私とケン君は、ここんところ広い竹林に棲んでいたのだが、ケン君は、だいぶ疲れているようなので、心配だ。2/2
かのヘルタースケーターは、中央図書館の百科事典コーナーで、いつものように飛んだり跳ねたりしていた。2/3
私はサンフランシスコ・セーヤー軍の、1軍と2軍を取材した。1軍は地下鉄を利用しているのだが、2軍の元有名選手たちは、昔懐かしい馬車に乗って球場入りをしているようだ。2/4
1枚目は失敗作だったが、2枚目はゴッホとムンクを掛け合わせたような、なんだか生きているような感じがする絵ができたので、我ながら驚いてしまった。2/5
私は、会社の営業車を改造して3階建てにして、超おしゃれな内装でシックにまとめた最上階のオーディオルームに寝そべって、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いていた。2/6
その頃の私は、のちには殺してしまうことになる人たちと一緒に、楽しく映画に出演したりしていた。2/6
その日の私の制球は冴えに冴えて、敵をバッタバッタと三球三振に討ち取っていたが、肝心要の9回裏に4番の痛恨の逆転ホーマーを許してしまったのは、朝御飯の時に、つい「タラの白子」を喰うてしまったからに他ならない。2/7
どういう風の吹きまわしか、かねてから莫迦にしているマツザカ社長と、ぱったり出くわしたのだが、だんだん彼奴のペースに巻き込まれてしまい、自分が卑屈な態度を取り始めていることに気づいたが、かというて、どうすることもできない。2/8
デザイナー志望の私は、学校を出てから、きまぐれにいくつかのデザイン会社を受けたが、みな合格してしまった。面倒くさいので、一番はじめに合格通知がきた会社に入ったのだが、それがわが人世の躓きの石となった。2/9
「さあ、撃とうと思うなら撃ってみよ!」とお得意のセリフを絶叫した途端、私は舞台の上で、腹に1発銃弾を喰らった。護民官が、「芝居の中では、絶対に人殺しをしてはならぬ」と再三にわたって厳命していたにもかかわらず。2/10
疎開列車の中では、ときおり天井から降りてくる、葡萄や柑橘類などの果物を食べるのを楽しみにしていたのに、あっという間悪童たちに食べられてしまった。2/11
このヤクザの男は、目の前の織機が、由緒ある古代織を編み出す機械であることを、つとに見抜いているようだった。2/11
いと狭きノアの箱舟にて、情人を確保するは至難の業にて、性欲猛き若き男どもは、時に禽獣を捕まえては、腐りし精を放ちおりたり。2/12
偉いさんたちは、明日の船便を運行させるかどうかについて、曇り空を見ながら相談していたが、僕らはカニなので、小魚たちと楽しく遊び戯れていた。2/13
左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い 2/14
オフィスのフロアが、草ぼうぼうになってしまったので、みんなで手分けして、大掃除をしているうちに、私はえもいわれぬ幸福感に包まれていった。2/15
彼女が、「あなたの古本も売ってあげましょうか?」と親切に言うてくれたのだが、私は断って、彼女の店の片隅で、戦前の無名作家の小説を読み続けていた。2/16
「押しくら饅頭押されて泣くな」という子供たちの悲鳴のような歌声が終わったので、外に出て見ると、はらわたの裂けた饅頭が1個落ちていた。「お父さん、ボクだよ」という声が、そこから聞こえた。2/17
天才悪魔博士の弟子たる私は、博士が開発した難病退治のワクチンを、次々に飲まされる人間モルモットとして重用され、ひとつしかない命を危険にさらしていた。2/18
満月の夜にチチンプイプイと唱えて交わると、子供ができた。翌年の満月の夜にチチンプイプイを2回唱えて交わると、双子ができた。そのまた翌年の満月の夜にチチンプイプイを3回唱えて交わると、3つ子ができた。そのまた翌年の満月の夜に2/20
会社の若者たちと共同生活を始めたのだが、すぐに嫌になった。些細なことで行き違いがあり、ひとたび生じた亀裂は、もはや修復のしようもなかった。どっちが悪いのか分からないが。2/22
殺してもあきたらない彼奴の、まるで猪八戒のように醜い体に、切り出しナイフで3度切りつけたのだが、なぜか彼奴は、まだ倒れない。2/23
私が長い旅から戻ってくると、長年にわたって下宿していた長屋が、何者かの手によって壊され、火をかけられ黒焦げになっていた。2/24
私は政府の犬になってしまい、さらに落ちぶれて、殺し屋になってしまった。上機嫌で唄い踊っている連中を見つけると、いきなり背後からドスで刺し殺すのが仕事だ。2/25
お笑いの世界でちょっと有名になった私に、扶桑社のタジマという男から電話がかかってきて、「新書を出しませんか?」と誘われたので戸惑っていると、「なに、もう原稿は全部出来上がっているので、お金さえ頂戴すればすぐに出版できますよ」という。2/26
海外出張を終えて出社すると、企画室の私の席に見たこともない人物が座って電話をかけまくっているので、私は、「ははあん、これは常務のナベショーの嫌がらせだな」とすぐに分かった。2/26
私を見ると必ず、狂ったように歯をむき出して襲いかかって来る阿呆莫迦犬がいたので、私は、飼い主もろとも叩き殺してやったんだ。2/28