芦田みゆき
11月17日
また、ハエが増えはじめる。
あたしは床にしゃがみこんで、オレンジを産んでいる。
つるん、つるんと、つややかな実が、黒いカーペットに産みおとされていく。
ドアをたたく音。
「誰? 近寄らないで!」
産みおとされたオレンジは、全部で六個。
あたしはそれを拾いあげ、よく冷えた水槽に浮かべた。
カチャッ、鍵のあく音。
けれど、誰も入ってはこない。
「あぁ、お腹がすいた」
冷蔵庫をあける。二〇個のオレンジがキチンと並んでいる。
牛乳ビンを取ってきてごくごくと飲んだ。
そして、ゆっくりとベッドに横たわる。
乳房が張っている。
わけもなく涙があふれてくる。
ハエの音。
ハエの音。
まぶたを閉じる。