遠足

 

塔島ひろみ

 
 


私の道ではない道に ノウゼンカズラが咲いている
野良猫が4、5匹もまとまって、日陰を見つけて涼み、ウトウトしている
学校帰りの中学生たちが足をとめ、しゃがみ、猫をなでる
この道を
歩くはずのない私が歩いている
崖を攀じ登るような必死さで、東新小岩の薄汚れた区道を、歩いている
細い手足をボキボキ間違った方角に折り曲げながら、自分の道でないこの道を、歩いている
私の道に出るために、一生出会わない、時を共有しない、擦れ違いすらしないはずの人たちと擦れ違い、
殺虫剤が噴射される


「ぐしゃ」と音を立て、前のめりに崩れた私は、
がさつく硬い路面に蹲った
体じゅうに矢が刺さったようなダメージだが、荷物は無事だ
ゆっくり体を起こし、
私に割り当てられていない空間に立ちあがる
「あ。」見るはずでないものを見た女が小さく叫び、足早に遠ざかる
私の道に私は行きたい


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が私の道でないことを知る
それでもまず
道を渡ろう


ソグ、ソグ、ソグ
沿道の畑でトウモロコシが音を立てて成長している
私のトウモロコシでないトウモロコシに私の太陽でない太陽が猛烈な光エネルギーを差しかけ、
緑色の茎は空へ向ってまっすぐに伸びる
その畑を半分つぶして作られた買物道路には、いるはずのない私だけが歩き、いるはずの人は誰もいない
「ぐしゃ」と、イヤな音が聞こえ振り返ると、自転車ごと転んだらしい女性がつぶれ、呻いていた
この道は彼女の道でもなかったのだ


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が誰の道でもないことを知る
道は更に分かれ、無数にあった
みんな人が作った道であったが、
道沿いの保育園で子供たちが遊んでいたが、
団地のベランダに洗濯物が下がっていたが、
大型車の騒音が絶えることなく聞こえていたが、
どの道にも人は歩いていなかった


ソグ、ソグ、ソグ、
伸び続けるトウモロコシの間を縫って、荷物をパンパンに詰めたリュックを背負って私は道を探して歩く
私は人を探して歩く

少し楽しくなってきた

 
 

(7月26日、東新小岩4丁目で)

 

 

 

遠足」への1件のフィードバック

  1. 良いですねえ。これをずっと読みたかったのだと思います。
    塔島さん、応援しています。頑張ってください。

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