原田淳子
ゆめのじかんがおわった朝は
きえてゆくゆめを栞にして
自転車にのる
図書館の地下書庫の剥がれた請求記号
汗に濡れた皮表紙
仄暗い、黴のにおいのなかで
かたまってしまった913.6のことばに
似たゆめをみつけて、栞をさす
きえたゆめのぶんだけ、栞をさす
秘密の暗号のように
永久に知られないまま
朽ちて、塵になる
どれくらいの栞があるのか
それがなんの栞だったのか
黴の匂いでわからなくなって
偉人たちの写真も
ゆめのいろも
わすれるまで、栞をさす
さしつづける
夜は台所でタオルと靴下をあらう
遠くで河が流れている
わたしの真うえを雲が流れている
わたしも
栞も
雨にうたれて、塵になる