忘却のみ願う左手

 

橘 伊織

 
 

降る雨が色を覚える

何よりも静かに 遠い夜が明けていく

失われしぬくもりは 記憶のなかにすら薄れ

不確かな何かと 須臾の刻を虚ろうか

やがて風が吹く

遠いところ

ひっそりと 誰も知らぬ純粋音が生まれた場所

ただ忘却のみ願う左手 生暖かいぬめりある右手

やがて訪れる夜を待ちわびる

それだけが赦された贖罪なのか

熱風の砂漠を渡る 遠い日の巡礼者のように

夜を待ちわびる

それすらも赦されぬ宿業の中で

ただひとり 己が骸だけを探して

 

 

 

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