喫茶店

 

みわ はるか

 
 

しばしばどうしても「モーニング」に行きたくなる日がある。
モーニングというのは東海圏発症の習慣だ。
午前中、コーヒー1杯の値段でトーストやサラダ、ゆで卵なんかがついてくるシステムだ。
つまりとってもお値打ちなのである。
まだわたしが小学校の低学年だったころ、日曜の朝に家族で近所の喫茶店に行った。
内観は少し古めかしくてソファもどこか傷んでいる。
今みたいにLEDライトがあるわけでもなく薄暗い白熱灯が店内を照らしていた。
カランカランと扉を開けると、白髪白髭でダークグリーンのエプロンをしたひょろっとしたおじいさんがニコニコと迎えてくれる。
その後からヒョコっとまたもニコニコしたダークレッドのエプロンをした奥様が顔を出す。
少し年の差があるのか、髪は黒々としていたし肌つやもあったような、小柄なおばさまだった。
片手にはコーヒーポットを持っていた。
店中にコーヒーの香りが漂いそこにいる人みんなが休日の朝を穏やかに楽しんでいた。
もちろんわたしはまだ小さかったのでコーヒーではなくオレンジジュースを注文していた(実は大人になった今もコーヒーは苦手なのだけれど)。
半分に切ったトースト、キャベツや紫玉ねぎや人参が細かく切られたサラダ、ゆで卵は殻ごと出てきた。
トーストには小倉あんかマーマーレードを塗る。
たった2択しかないのに選ぶという行為がドキドキだった。
サラダにはちょっとおしゃれな、今思うとフレンチドレッシングをたっぷりかけた。
ゆで卵は苦戦して殻をなんとかむき少しお塩をつけて食べる。
最後はオレンジジュースを口の周りベトベトにしながら飲み干した。
お腹は満腹だった。
ゆるやかな時間がそこには流れていた。

家着でそのまま喫茶店にやってきたような無精ひげを生やしたおじさんが足を組んで煙草を吸いながら1人朝刊を読んでいた。
家族連れで来たであろうテーブルにはちびっ子たち用の漫画や絵本が散らばっていた。
常連なのだろう、マスターと慣れたように話す老夫婦は美味しそうにコーヒーを飲みながら会話を楽しんでいた。
メニューの数も飲み物の数も決して多くはなかった。
だけど、休日になると足を運びたくなるそんな不思議な場所。
タイミングよくコーヒーのおかわりを運んできてくれる奥様も素敵だった。
みんながその空間を楽しんでいた。

今、とってもお洒落なカフェやチェーン店が増えた。
店内は明るくて若い人も増えた。
そこには様々なモーニングサービスがあって選ぶのにも苦労してしまうほどだ。
内装やテーブル、椅子もモダンな雰囲気を醸し出している。
すごくかわいいのだけれどわたしはなんだかそわそわして落ち着かなくて、何食べたかも忘れてしまう。
お会計を済ませて外に出ると自然に「ふーっ」と息がもれた。
やっぱりわたしは昭和っぽいレトロな感じのお店が好きだなぁと思う。
今、夜9時までやっている理想な喫茶店に通っている。
店主はもう70才近いだろうか、白髪にどこで買ったのか丸眼鏡で少しよろよろと歩く。
娘さんがフォローしながらやっているそんなお店。
余計な詮索はされないし、夜のメニューにちょっとした軽食があるのでそれが嬉しい。
好きな本を持っていつまでも居座ってしまう。

店主、どうかどうかいつまでも元気でいてくださいね。

 

 

 

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