少女

 

塔島ひろみ

 
 

男女の間で何かあった
少女は傷を負い
血を流しながら夜の町をよろよろと歩く
倒れてしまう
少女はこの辺りの住人だが
道行く人はだれも少女を知らなかった
少女もだれも知らなかった
汚い靴底が鼻先をかすめザクザクと軍靴のように歩きすぎる
星を見ていた
ぐしゃり
ブーツのかかとに嫌な感触があり
私は少女の顔面を踏んだ
少女の頭部がアスファルトの割れ目に斜めにめりこむ

翌朝。
大人たちが数人集まり、足跡だらけの少女に土をかける
私も 大きなシャベルでかけている
土が入り、大きく見開いた少女の目から涙がこぼれる
もう 空は見えない
コンクリートを流して固め、舗装が終わった
大人たちはそれから別の家に行き、倉庫の下の土をかきだし、
家出に失敗した少年をそこに突っ込みコンクリートのふたをした
若者を埋める町 足の悪い老人が押し車を押しながらたくさんの買物を
運んでいる 食べきれないほどの食料を運んでいる

髪を染め、あちこちに穴を開けてピアスをし、タトゥーを入れ、化粧をし、
化粧をし、化粧をし、
何度も何度も鏡を見てやり直し、それでようやく外に出た
少しだけ楽しい時間があり やがて傷つき
倒れ、道に寝てまっすぐに星空を見た
毎晩スマホの画面で見ていたゼウスとエウロペのロマンスを見ていた

アスファルトの下に 少年少女たちの青春が埋まる
彼らは年取ってから掘り出されはじめて深く呼吸をし町を見まわし
曲った足でよろめきながらも、かつて血を流してさまよった道を
新しい若者を踏んづけながら 生きるために
歩く

つぎはぎだらけの舗装道に朝日が射す
道はいつも少し温かい
猫が日向ぼっこをしている
私はときどき足を止め 道端の草花の写真を撮ったりもする

 

(12月某日、西小岩で)

 

 

 

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