「レインボーハウス」 此処にあり。

 

今井義行

 
 

此処は ね 作業所の 「レインボーハウス」だ

此処って ね 雨上がりでも ないのに わたしを ふくむ さまざまな病気の 「精神疾患者」虹たちが この世で 社会訓練をしていく 場所なんだよ

鬱病や 躁病 双極性障害 統合失調症・・・ 等などの 「精神疾患者」虹たちが 此処で 1日を 過ごすの さ・・・

此処に 通所してくる 人たちは 10人くらいの スタッフと ともに やわらかな 時間を 過ごすの さ・・・

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(今 この世は コロナの時代に なったんだ ね)

わたしたちは 例にもれずに コロナ対策をしているよ マスクの着用や 薬用石鹸での 手洗いや 手の指のアルコール消毒 等など

(なんだか コロナの響きって あたらしい 時代の 「お菓子」みたいな 感じが しない か?)

山本さんという ベテランの男性スタッフが わたしに その日の 作業内容を 説明してくれた

宅配寿司2人前 割り箸を2本 醤油の小袋を2個 プラスチックの小皿2枚を 次々に ビニール袋に 封入していくという作業だ 1時間で 60セット

ビニール袋に セットしていくという作業は はじめは もたつくけれど 作業をしていくうちに だんだん 慣れてくる

しばらく経って 山本さんが わたしの作業の見回りにやってきた 「そうそう バッチリじゃない」 山本さんからの オーケー出しのあと ふと わたしの親指を見た 山本さんが おおきな声で言った

「あれれっ いったい どうしたの? その 右と左の 親指の爪の 凸凹は?」 山本さんに とても 驚かれて わたしは となりの カンファレンスルームに 呼ばれることになった

作業場所から 続いている カンファレンスルームで アクリルの 透明な パーティションをはさんで わたしと山本さんは 向かいあって すわった

「あらためて尋ねるけれど その 親指の爪の 凸凹は なんで そうなったの?」

「この 右と左の 親指の爪の ことですか?」

わたしが 右と左の 親指の爪を まじまじと 自分で 見つめてみると それらは 海水に 浸食されて 凸凹に 入り組んだ リアス式海岸の ようだった・・・

「じつは わたしは 20年以上前 鬱病に なってから 毎日 親指の爪を 齧って 食べることが 楽しみに なって しまったんです」

わたしは 右と左の 親指の爪が だいすきなのだった・・・

それは 前歯で ガリガリ 齧って 食べて いるとき 口の中に 甘い味が 広がって くるからだ 齧りすぎて 血が 出ることも あるけれど・・・

山本さんが わたしに このような 指摘を した
「作業中にも マスクを外して 親指の爪を 齧って 食べたりしているの?」「はい 時々・・・」

「爪は コロナウィルスの 温床だから 食べ物の宅配寿司のセット組みの作業には 向いてないよなあ ボールペンの セット組みの作業に 切り変えてみようか?」

(山本さん わたしが 自分の 右と左の 親指の爪を 齧って 食べる ことは わたしには おいしい 「お菓子」を 楽しむ ことなんです よね)

カンファレンスルームから続く ひろい 作業場所では たくさんの 「精神疾患者」虹たちが さまざまな 作業に 黙々と 取り組んでいた

電動アシスト自転車の金具をつくる作業や 布類を断裁していく作業や PCの操作をする作業や 編みぐるみをつくる作業 等など

それらは どこかで 誰かが 利用するものに なっていくの だった・・・

わたしは ボールペンの セット組みをする作業を することになった それらは さまざまな 企業が配布する ノベルティグッズだった 1本 1本の ボールペンを 左がわに クリップが 向くように セット組みしていく 作業だった

此処は 雨上がりでも ないのに わたしを ふくむ さまざまな病気の 「精神疾患者」虹たちが この世で 社会訓練を していく 場所なの さ・・・

わたしたちは 生きていくのが 少し 困難なだけで けっして 狂ってなんて いないのさ・・・!

(わたしは 山本さんに 見つからないように 注意しながら こっそりと マスクを外して 右と左の 親指の爪を ガリガリ ガリガリ 噛ってしまうん だよなあ・・・)

(ああ 爪って なんて おいしいんだろう!)

(わたしの 右と左の 親指の爪の 表面って リアス式海岸みたいに 凸凹して いるけれど・・・)

(コロナってさ この世に あたらしく あらわれた まがまがしい 病気なんだけど・・・)

(なんだか コロナって やっぱり あたらしい 時代の 「お菓子」みたいな 感じが しない か?)

しばらく経ってから 山本さんが わたしの作業の 見回りにやってきた 「そうそう バッチリ じゃないか」

(山本さん 爪って なんで こんなに おいしいん でしょう か・・・?)

(ああ こんなにも おいしい 凸凹の 「お菓子」って この世に あるだろう か・・・?)

(ああ いつか・・・ コロナは わたしにも 振りかかって くるのだろう なあ・・・)

「レインボーハウス」の虹たちが 黙々と 作業している場所で わたしの 親指の爪は わたしだけの おいしい「お菓子」・・・ リアス式海岸じゃなくって 『コロナ式海岸』に 変わっていた よ

わたしたちは 生きていくのが すこし 困難なだけで けっして 狂ってなんて いないのさ・・・!

わたしたち 「精神疾患者」虹たちは 結構 たのしい 毎日を 過ごしているの さ・・・

そう 「レインボーハウス」 此処にあり。
そう 「レインボーハウス」 此処にあり。

調理師免許をもっている スタッフが 「レインボーハウス」の 「精神疾患者」虹たちを 呼びにきたよ 「お待たせしました 今日のメニューは みんなの だいすきな 豚とキムチの 丼だよ!」

(わたしも 豚とキムチの 丼は だいすき だけれど・・・ 本当は 自分の 親指の爪を いつまでも 齧って 食べて いたいんだよなあ・・・!!)

わたしの 親指の爪は わたしだけの おいしい「お菓子」・・・ リアス式海岸じゃなくって  『コロナ式海岸』に 変わっていたの さ・・・ !!

 

 

 

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