「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第89回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2020年師走蝶人酔生夢死幾百夜

 

高卒で事務職に採用された彼女だったが、みるみる出世して、2年後には代表取締役社長になってしまった。12/1

文化へ行ったらヒサダさんが出てきて、「あなたたちどうしてるの」と聞くので、「いやあ相変わらずですよ」と答えると、「もっとビシッとやらなきゃだめじゃないの」と叱られた。12/2

敵に包囲された城内にあって、デビット王子は、敵が放つ燃える火球をうまくキャッチしなければ、ただちに爆発して甚大な被害が齎されるので、苦労が絶えないのである。12/3

彼女は。手もとの金を全部まとめて、床下に掘った穴に埋めた。12/4

倒産してまもなく、この世から消え去る会社では、急激に社員が姿を消し、残るは我ら数名だけとなったが、たった1台のパソコンには、全社員の別れの言葉が記されていた。12/5

中国軍船が群れる国境周辺の海域に、丸木舟に乗ってやって来た私は、海にプカプカ浮いて日光浴しながら、とうとう新旧約聖書を全部読んでしまった。12/6

宣伝課と同期入社の忘年会が、同月同日同時間にバッティングしたので、その両方を行ったり来たりしているうちに、終わってしまったので、電車に乗ると、右側には亡くなった今井さんが、反対側にはヨシタケさんが座っているので、もしかするとヨシタケさんもこの世の人ではないのかもしれない、と思った。12/7

全世界を席巻した新型コロナウイルスのせいで、人類の生き残りはたった2人の男女になったのだが、彼らは協力して子供を作ろうとはせず、共に逃れついた北極点で、殺し合いを始めようとしていた。12/8

暫く前から、夜中に小便に起きなくても済む薬を飲んでいるせいか、夢はいつもと同じように激しく見ているにもかかわらず、残念ながら、起きてそれを枕元でメモできなかった。
従って、これは夢日記ではない。12/9

これまでの海戦では、一度も負けたことがない本艦であるが、念のために、このたびの強敵に備えて、鉄人28号を呼び寄せることにした。12/10

誰の影響だか、彼女は、有金を全部賭けるのを止めてから、その女性性の破壊が、いくぶん収まったようなので、周囲の人はほっと一息入れた。12/11

私は、その難儀な試合を上手に操作して、10対9で勝利したのよ。12/12

私は寅さんの監視役を仰せつかったのだが、神出鬼没で、煮ても焼いても喰えないこの風来坊を、抑えることなぞ、出来るわけがなかった。12/13

死にゆく王子は、その前に某国の王女に氷上で長い接吻をして結婚式を挙げ、初夜の睦言をたっぷり楽しんでから、やすらかに死の床に就いた。12/14

3人で決闘することになり、当日の約束の時間に集まったのだが、どういう風に決闘をやるかについての話し合いの結論が出なかったので、「じゃあまたね」と言うて別れた。12/15

パナの展示会で、各ブースごとにお土産を呉れたのだが、それが物凄い荷物になってしまい、とうとう会場からタクシーに乗る破目に陥った。12/16

吉原でさっぱり売れない女たちを集めて、その性豪がメンテを施すと、たちまち男どもの指名が殺到するのだった。12/17

恥ずかしいので、今まで一度もやったことのない、詩の朗読というやつをやってみたが、幸いなことに、誰も聞いていなかったので、大助かりだった。12/18

共同権利者である彼女に、その物件の説明をしている間に、彼女が息を引き取ったので、私が、全権を引き継ぐことになってしまった。12/19

もうその頃には、全国民がコロナに感染していたので、いくらワクチンを飲んでも、後の祭りでした。12/20

イルカに変身した私は、イタリアで観光客を、つま先泳ぎをしながら、案内しているところだ。12/21

ジャスミン革命が大爆発したのは、今から3年前のこと.だったが、たった3年でも、その時代の空気感は、もう2度と戻ってこないことを、嫌でも思わないわけにはいかなかった。12/22

私は、新しい手を次々に作っては、そいつでもって、聖徳太子みたく、百千のハンコを、ビシバシ押してやったんだ。12/23

「あの性悪のセクスイー女にだけは近づくな」と先輩が忠告してくれたにもかかわらず、おらっちは、うかうかと手を出して、ズルズルと深みに嵌っていったのよ。12/24

仕事を終えて、新幹線の1号車の指定席に座っていると、浜名湖付近で、突然巨大ウナギどもが乗り込んできて、「ねえ、一緒に泳ごうよ」と、誘って来るのだった。12/25

私はウチの「サイカンキョウ鉄工所」を活用して、カモラマンのカモちゃんに、いい写真を撮らせようと企んだが、やっぱ無理だったようだ。12/26

この病棟に入ると、ガンで死にゆく人たちの、寛大な精神に打たれるのであった。12/27

バク高乏人そう会チャイ好きしきに私ビューキシャンクル自信ない 12/28

私は、頭の中のイメージ通りにセンター前にヒットを打ったが、一塁にゆうゆうセーフで到達するはずが、焦って左足から滑り込んだために、アウトになってしまった。12/29

海から奇妙なものが出現した、と聞いて、コウジュ君が、「それはきっとスタヴローギンに違いない」と言うたので、わいらあ会社の仕事なんか全部すっぽかして、電車に乗って出かけたが、これって出張手当が出るんかいな。12/30

私はもてん出社 きねんきかく をの工場と本を毎日 日本人かてえれく 12//31

 
 

西暦2021年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

山紫水明の田舎町を訪ねたのだが、あまりにも山紫水明すぎたので、その名前を忘れてしまった。1/1

ジュースが配給になったので各戸毎に配分しなければならないのだが、それを計ったり、エレベーターに詰め込んで配達するのが大変だ。1/2

クマと遊び始めたのだが、そこいらにウンコはするは、やたら吼えるはで、ひどく大変だ。急いでトリセツを引っ張り出したが、役立たずで、後悔先に立たずだった。1/3

JRの危険団では、反鉄道団体を規制するために、JRシンパをにわかに囲い込んでいた。1/4

「おらっち、ちょっくら横須賀へ寄ってくらあ」、とそいつがいうので、止めたのだが、案の定溝板通りの米軍人用のバアで新型コロナに感染して、ほえずらをかいた。1/4

私らは、会社の跡地をたびたび訪れては、再起を誓ったが、それは結局果たされぬ約束、見果てぬ夢と終わってしまった。1/5

ガードマンの私が、一晩中観察したところによれば、非常事態宣言をしたマンションの窓の中に、1美女、2幼児、3母親、4盗人が次々に忍び込んでいった。1/6

誰かが、おらっちをはじめとする33匹の蟹の目の前に、うまそうなパスタを落としてくれたが、大きすぎて食べられなかった。1/7

夜の12時ちょうどに、コンサートの最後の曲が終わるはずだったが、失敗したので、指揮者は、今度は1時終演をめざしてまた挑戦したが、うまくいかないので、コンサートは延々と続いた。1/8

解体していく人物像を阻止しようと、一世風靡した彼の名文句を画面に向かって投げつけたが、画像は、どんどん溶解していくのだ。1/9

もう人世の最後の周回期に突入したので、幼少期から現在に至るまでの印象的な光景を呼び出して、ブルーレイに焼き付けておこうとしているんだ。1/10

国鉄の終電時間が早まった代わりに、全国の全線の普通列車が無料になったので、暇人はみな利用している。1/11

いつまで経っても、その場に転がっている死体を、誰も処理しないので、しかたなく私が地面に穴を掘って、商人2名、天使1名の死体を葬った。1/12

さんざん罪を犯したのは事実だが、同じくらい罪を犯した人間を見つけたら、2人とも免罪されると聞いたので、罪人たちの情報交換が盛んに行われているようだ。1/13

ここからだと、世界の秘密を解明する手掛かりとなる、岩石の割れ目が、よく見える。1/14

西海岸に住んでいた時は、いつもジョン・ウエイン空港を利用していたのだが、コロナ禍で使用中止になって、名前もアラモ空港に変わったそうだが、悲しいことだ。1/15

電通が石坂浩二を売り込んでいるのに対抗して、おらっちは、新しき村の家ごとに入り込んで、失われた一家団欒を回復していったのよ。1/16

100万円の報奨金が出ると聞いたので、イの一番にもらおうと、わいらあ国会議事堂に押し掛けた。1/17

政とにたかう故じゃの声明へのしょめい 1/18

我が国の6チャンと5チャンネルに、4Dとか8Dなんてめじゃない物凄い解像度を誇る映像を、暇な宇宙人が送って寄越したので、技師たちは大慌てだ。1/19

ともかく、どんな学校でもいいと思って、10個以上も受験したところ、なぜだか全部受かってしまったので、どれにしようかと、いつまでも迷っているわたし。1/20

アウターのトレンドが完全に行き詰ったので、今年のパリコレの出品は、マスクとパンツだけになったが、その中でいちばん注目を集めたのは、やはりフンドシだった。1/21
 

亨同ホテルに詰め込まれた若い女たちは、みな部屋の窓からハンケチを振って助けを求めているようだが、私にはどうすることも出来ない。1/22

バス停でバスを待っている妻が「バス停の傍の橋に可愛いタヌキがいりよ」と電話してきたので、自転車で駆け付けると、なるほど可愛いコダヌキがいたので、「タヌキよ、タヌキよ、こっちへ来い」と誘うのだが、橋の半分のところまでしかやってこない。1/23

そのロシアのホテルが沈んでいく地面から、2本の手が伸びていたので、1本はサカモト君が、もう1本はキタジマ君が、ぐっと握って引っ張り上げると、どこかで見たことがあるような顔つきの男が、姿を現した。プーチンならぬリプーチンだった。1/24

カクミとかいう女が逃げこんできたので、しばらく匿っていたら、マスコミが殺到して、我が屋は足の踏み場もない。1/25

この国でいちばんの悪党を、おらっちは一刀のもとに、切り捨てたのよ。1/27

王宮では、毎日新曲を必要としていたので、私ら作曲家は、朝な夕なに、既存の有名曲からサビをぱくった疑似新曲をでっち上げて、お茶を濁していた。1/28

次々にブルックナーの交響曲第5番が演奏されるが、どれが原典版でどれがハース版あるいはノヴァーク版であるのかさっぱり分からないので、おらっちは全部を同時に演奏してくれるように頼んだ。1/29

今朝はいくら時間が経っても7時にならないので、それまで短歌を詠もうとするのだが、1首もできなかった。1/30

天下分け目の大勝負の日に、以前私と付き合いのあった2人の女性が大勝利を勝ち取ったので、少しは私も浮かばれるかと期待したのだが、そうは問屋がおろさなかった。1/31

 

 

 

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