ソシラヌ広場ーアンモナイトの見た夢 Ⅱ

 

南 椌椌

 
 

10月18日から青山ギャラリーハウスMAYAにて個展『ソシラヌ広場―アンモナイトの見た夢』を開催いたします。
個展に合わせて刊行の同名作品集より4点を「浜風文庫」に公開いたします。

 


 

猫とレインボー

 
猫の気持ちは わからないという人
猫の気持ちは よくわかるという人
ボクは猫だけど ボクの気持ちは
わかるようで わからない
それはどうでもいいでしょ
ボクは生まれてこのかた 猫だから

ボクのルームメイトはレインボー
なにが楽しいのか 虹の絵と歌ばかり
恋人もいないのに 恋の歌ばかり
レインボーの気持ちは よくわからない
それはどうでもいいでしょ
ボクは生まれてこのかた 猫だから

 
 


 

トンピナチョのはなし

 
農夫トンピナチョが 豊作のもろこしをロバに積み
千年伝えの 聖アルバンの森で  
ヤブに隠れて シッコロしてると
いにしえ絶滅したとされる マヤの聖獣トビハネマヤネズミが
怒り狂って トンピナチョめがけて 跳びかかってきたのだ
「聖獣のオレさまに シッコロかけるなんて このウンチョロたれが!」
「なにいうだ!シッコロかけても ウンチョロはたれてねえだ!」

  語るに落ちるとはこのこと
  てんやわんや アホらしい その後の委細は省きます

  (知りたい方には耳打ちします)

トビハネマヤネズミの正体は ウソかマコトか
組んずほぐれつ ほぐれつ組んず
聖アルバンの神々さえも 笑って見守るばかり
太陽なんか 膝をかかえて おねむの時間
もろこし積んだロバさえ トボトボ帰路につき
いつまでやるんだ トンピナチョ
「やってられねえ!」
トビハネマヤネズミは 我にかえって
聖アルバンの闇の彼方へ 消え去ったということだ

 
 


 

プラテーロの思い出

 
ヒメネスの「プラテーロとわたし」の舞台
アンダルシアのモゲールを訪ねたことがある
ポルトガルに近い ウェルバ駅からヒッチハイク
丘の上に白い宝石と 謳われた町並みがみえ
さっそく ひげたっぷりの爺さんと ロバがお出迎え

ヒメネスは快癒の日々を ここモゲールで
ロバのプラテーロとともに過ごし
詩人のことばで「プラテーロとわたし」を書いた

夢よりも 昔になってしまった
眩く光る広場から 花咲く小路を幾つも抜けて
日がな一日シエスタのような村
古い葡萄酒の酒蔵で一杯やってると
寡黙なプラテーロがウインクする

村はずれのモンテ・マヨールの丘に行った
ヒメネスとプラテーロがよく歩いた道だ
ふくろうのホーホーと啼く声を聞いた
丘をめぐって ホーホー探したが 姿は見えなかった

村の広場にもどって来ると
三角屋根の ソシラヌ移動遊園地が立っていた
塗りの剥げた さびしい回転木馬
オモチャのような観覧車が 空回りしていた

遠くから ほらホーホーという声が 聞こえてきた
そうだな もう酔うしかなかった
ホーホー ホーホー
        
 ✶ ファン・ラモン・ヒメネス作『プラテーロとわたし』理論社・初版1965年
  伊藤武好、伊藤百合子訳 理論社版の長新太の挿絵がたまらなかった。
  作品背景の写真はアンダルシアのフリヒリアナという町。

 
 


 

ハゴロモ

 
半島の舞姫がつま先あげて 肩で長短(チャンダン)
思い出したように ときめきの心躍りを
踊りましたね ありがとう
哀しみは 腰をおとして たひらかに
水の上から音もなく 舞いたつ
羽衣は 白いチョゴリのことだった
鹿の角生やした姉さんが
涙こらえて 頬染めている
どこから来たのか オアシスの仔象
長い鼻 ふりふり ダイジョブ ダイジョブ

✶ 長短(チャンダン) 韓国舞踊特有の調子のとり方。原マスミは「ハゴロモ」という曲で 「チョゴリよ チョゴリ わたしのハゴロモ」と歌っている。イ・チャンドンの映画「オアシス」には、壁のポスターの仔象が、ソウルの安アパートの部屋に出現する美しいシーンがある。

 
 

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2021年10/18(月)〜10/30(土)

南 椌椌 個展「ソシラヌ広場―アンモナイトの見た夢」

開廊時間:11:30am〜7:00pm(日曜日休廊 土曜日5:00pm迄)

〒107-0061 東京都港区北青山2-10-26
(地下鉄外苑前駅徒歩5分)
tel : 03-3402-9849
fax : 03-3423-8622


e-mail : galleryhousemaya@gmail.com


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