今井義行
おめでとう リアン!
「記憶にのこすのではなく 記録にのこしてほしい」と シングル・マザーの
アルジェリーが言ったので
わたしは いま この詩を書いています
アルジェリーの 長女のリアンは
母が 出稼ぎ労働をしている
ドーハに 今年 単身渡って
レバノンの男性と 結婚したという
彼女はもう22歳になっている
写真にうつっている レバノンの男性は
リアンの腰に 優しく手を回している
おめでとう リアン!
・・・・・・・・・・・・・・・・
わたしは 2年前には婚約していた
相手は14歳年下の フィリピーナ
彼女の名は アルジェリーといった
わたしたちは日本で暮らしたかった
けれどねがいは無くなってしまった
どちらがどう ということではなくて・・・・・・・・・ アハ 考え甘かったね
わたしは 彼女を妊娠させる事はなかった
彼女には 既に3人の娘がいて
わたしたちには 4人目の子どもを育てる余裕などなかったのだ
・・・・・・・・・ アハ 考え甘かったね
長女のリアンは 20歳で美しかったよ
・・・・・・・・・・・・・・・
フィリピンでかんがえていた あいについて ────
(そんな事 わかるわけ ないでしょう)
さらりとした 夏の気候の アルジェリーの家で
日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい
・・・・・・・・・・・・・・・・
それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
(あいって なに・・・?)
(そんな事 わかるわけ ないでしょう)
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない
42日間の 滞在期間のなかで
わたしたちは しばしば 手をつないで ショッピングモールに出かけた
「Do you love me ?」
大通りで 乗り合いジープを 待ちながら
あなたは しばしば 私に 問いかけてきた
けれども あなたの 手からは
伝わって くるものが なかった
いや わたしの手が
何も 伝えて いなかったのか
「Yes, of course」と わたしは 言ったのだが ───
愛って なんだ ────・・・・・・・・・?
(そんな事 わかるわけ ないでしょう)
ある日の ショッピングモールの ホーム用品売り場で
アルジェリーは 電球を 1個買った
フィリピンでは
電球のことを 「 Akari 」と いうのだった
「 Akari 」わたしは その言葉に 惹かれた
なにか とても あたたかい言葉
家に戻って 電球を 新しいものに 取り替えた
煌々とひかる Akariに わたしは見入って
なにか 健康的な象徴を 見つけたような気がした
夜には わたしたちは
ふたり ならんで ねた ────
きまって アルジェリーは 先に 寝息をたてた
ときに 明け方に
アルジェリーは わたしのからだに しがみついてきた
黒い髪が わたしの口に 入ってきた
「Do you love me ?」
あなたは わたしに 問いかけてきた
「Yes, of course」と わたしは 言ったのだが ───
わたしたちは 服を 脱がなかった
それから・・・・・・・・・・
「トイレに行ってくる」と 言って
あなたは しばらく 戻ってこなかった
やがて 部屋に 陽がさしてきて
戻ってきた あなたは
わたしの首に 腕を巻きつけて
「Good morning, Yuki!」と 明るく笑った
わたしも
「Good morning!」と 明るく笑った
わたしは「Do you love me ?」と 言わなかった
・・・・・・・・・・・・・・・
アルジェリーのアイディアで
わたしたちは フィリピンから 少し 足をのばして
ブルネイ王国に
旅をする ことになった
ブルネイ王国には アルジェリーの
クラスメイトの ネリヤがいるのだ
空港では ネリヤと彼女の夫のジェームスが
にこやかに歓待してくれた
ネリヤは晩い第1子を身籠っていて
そのすがたを ジェームスが傍らで 見守っていた
ネリヤとジェームスは
5日間かけて 車で
ブルネイ王国を 案内してくれるという
・・・・・・・・・・・・・・・
何といっても美しかったのは
3日目の 早朝の青いビーチだ
わたしたちは はだしになって 寄せる波と戯れた
アルジェリーは 両手に
一生懸命 貝殻を 集めていた
わたしたちは ネリヤとジェームスが 用意してくれた
朝食を 木の椅子に 座って 一緒に食べた
そこで 記念撮影をしあおう ということになった
わたしは 寄り添い合って 微笑んでいる
ネリヤとジェームスを 撮影した
「今度は わたしが 撮るわよ」と ネリヤが言った
わたしとアルジェリーは 並んで砂浜に立った
「手でも つないだらどうだい?」と ジェームスが言った
わたしは しずかに アルジェリーの肩に手を回した
ネリヤが「そうそう いい感じ」と言った
わたしたちが撮ってもらったその1枚 ────それが
わたしたちにとって 一緒に写っている 1枚の写真になった
・・・・・・・・・・・・・・・
ブルネイの ホテルでは
わたしたちは シャワーを浴びたり
共同のキッチンで
コーヒーを 飲んだりして過ごした
わたしは ぼんやり 考えていた
日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい
・・・・・・・・・・・・・・・
それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない
愛って なんだ ────・・・・・・・・・?
(そんな事 わかるわけ ないでしょう)
部屋の中で 持ち物の整理を していた時のこと
アルジェリーが 咄嗟に
わたしのパスポートを掴んで においを嗅いだ
「Bad smell!!(悪臭ッ)」
それが あなたの わたしへの印象だったのか
わたしは 黙っていた
ダブルベッドで わたしたちは
ふたり ならんで ねた ────
それから アルジェリーとわたしは 抱きあった
抱きあいおわって
ぼんやりとした 空間が わたしたちに残った
しばらくして
わたしは アルジェリーに 囁いた
「Let us break our engagement and become just friends.
I think it is good. (わたしたちは 婚約を解消して 普通の お友達になりましょう
それが良いと わたしは思います)」
アルジェリーは うなずいた
そして
あなたは ゆっくりと こう語ったのだ
「My love for you is gone… I dont have love for you anymore Yuki…
before when we met in the first time, I love you … but now no more…
(わたしのあなたへのあいはきえてしまった・・・もうあいがないのですユキ
わたしたちがはじめてあったときわたしはあなたをあいしていた・・・でもいまはもう
I tried to love you again but I cant!! Friend」
わたしはもういちどあなたをあいそうとしたの でもできない
・・・・・・・・・・・・・・・
アルジェリーは 再婚しなかったという
アルジェリーとリアンとその夫の
しあわせそうな写真が 何枚も送られてきた
リアンは いまでも わたしの事を
「お父さん」と 呼んでくれている
アルジェリーは 家族の写真とともに
「How are you, Yuki?」と
わたしに メッセージも添えて送ってくれる
「Fine!!」と わたしも メッセージを
添えて返信する
わたしたちはとても良い友達になっている
イマイよしゆき@