「はなとゆめ」16 おもちゃではない

 

 

蝉が鳴きはじめました

窓の外を
クロアゲハがゆらゆらと飛んでいきました

燕たちは
大きな曲線を曳いて飛んでいます

土手を
朝の散歩のヒトたちが歩いています

たくさん
歩いていきます

青空の下
西の山が青緑に霞んでいます

きのうの夕方
モコと散歩したときにみた雲が忘れられません

たぶん二度とあの雲と会うことはないと思います

すこしピンク色に輝いていました
光っていました

このまえ桑原正彦から電話がありました
桑原くんはぼくの友人の画家です

夜中に新丸子のスーパーで買い物をしていたときです

桑原くんは
電話のむこうで言いました

ひかりなんだよね
むずかしいけどひかりなんだよ

桑原くんは電話のむこうで言いました

うまく言えませんがぼくもそれしかないと思いました

おもちゃでは
ありません

おもちゃに見えるかもしれませんが
おもちゃではありません

蝉も
クロアゲハも

燕たちも

朝の散歩のヒトも

西の青緑に霞んだ山も
昨日の夕方の空も

白い雲も

おもちゃではありません
おもちゃではありません

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

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