鈴木志郎康著「続・鈴木志郎康詩集」を読みて、歌える

 

佐々木 眞

 
 

生きる意欲が、急に減退してきたとき、
詩が、まるで書けなくなってしまったとき、
おらっちが思わず手に取る1冊。
それが、この詩集だ。

とりあえず、パラパラと頁をめくろう。
思潮社の現代詩文庫の121号だ。
パラ パラ パラ パラ パラ パラ
すると、こんな一節にぶつかる。

 言葉を探せ!
 ムッグゥーッ 声帯から血
 舌からも血
 血は口腔内に氾濫する*1

よりによって、この<スズキ詩>が転がり出てくるとは、驚いた。

じつは西暦2022年7月29日、
つまり今日のお昼前のこと、
電気コードに躓いた妻が、
床に倒れて、顔を強打したんだ。

彼女の顔の下から、とろーり、とろーりと流れ出て、
たちまち床に小さな人造湖をつくった、真っ赤あ赤な鮮血が
あまりにも、あまりにも、美しすぎて、
おらっち、正直彼女を助け起こすのも忘れて、じいーっと見入ってたのよ。

言葉の前に、美を探せ!
ムッグゥーッ 顔から血
とろーり、とろーりと流れ出て、床に真っ赤な人造湖
美は、リビングルームに氾濫する。

ここで突然、おらっち、志郎康さんの助言を思い出す。
「書けない時は、なんでもいいから、とりあえず書いてみること」
「短くてもいいから、なにかを書くこと」
そう、詩は、簡潔さこそ命なのだ。

 爆裂する路上性交!
 温順おまわり、私の絶頂する身体にさわるな
 これは、温順詩人の悲愴なのだ。*1

そうなんだ。
悲愴でも、思想でも、歯槽でも、
まずは最初の言葉を探すことだ。
なんでもいいから、ひとつ言葉を書いてみよ。

「萬犬、虚に吠ゆ」

そうそう、いいぞ、ワンワン、なかなかいいぞ。

そして、次へ行く。
何がなんでも、次へ行くんだ。

おや、傍から誰かが、おらっちにアドバイスしてくれているようだ。
おらっちの好きな詩人、ブコウスキー選手みたいだ。

 次の1行は常に待ち受けていて、
 その1行こそ遂に何かを見つけだし、
 遂に言いたいことを言っている1行となるかもしれないのだ。*2

そうだ。次の1行を探せ!

おらっちの、次の1行。
おらっちの、次の1歩。
おらっちの、真っ白白な未来。

 
 

 *1 鈴木志郎康「爆裂するタイガー処女キイ子ちゃん」より
 *2 チャールズ・ブコウスキー著・中川五郎訳「死をポケットに入れて」より

 

 

 

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