陽はまた昇る

 

原田淳子

 
 

 

骨をも腐らす、ながい雨の時代だった

緑の陰で溺れ、背には甲羅が生えた
もう、三百年生きた
望みという友もいない

亀は海に還るまえに光をみにいくことにした

闇の眼ではなにもみえず、光の匂いを辿った
這いながら泥を舐めた
それは微かにまだ記憶に残る
三百年前の水の味がした

峠を這い、
頂きの朝、
甲羅に全方位に亀裂が走った

未来という頂きに鳥が舞う

眼から落ちた鱗は光の粒
真珠の首飾り

“すべてが美しく、
 傷つけるものはなにもなかった”

ヴォネガットの墓に刻まれたその言葉を甲羅に刻んだ

亀は海に還ることにした

石に導かれて、浜を漂い
青く寄せる波に甲羅は溶けた

声の方角に風が吹いた

幻の石がひとつ、浜に遺された
峠の光のいろ

大菩薩峠にきょうもまた陽が昇る

 

 

 

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