すばらしいことばをわたしはいわない

 

駿河昌樹

 

           1998年作
           2023年2月11日版

 
詩は
詩人のものだから
かなしいとき
あなたは
詩を
開こうともしない

だれでもない
あなたに
だれかになったひとの
ことばなど
むかない

だれでもない
ひとの
ことばをさがせば
あなたは
わたしに
たどりつくだけ

だれでもない
わたしの
詩ではない
ことばに

ちかごろ
インスタントコーヒーばかりで
不満にも思わず
いつかの
青空に
飛び立った鳩の影を
湯気のなかに
思い出したりする

ほんとうの友情が
じぶんに残っているのか
気になり

なんて
平和の象徴でなんかないと
つぶやこうとして
やめる

いいことも
わるいことも
やめてきた
そんなふうに
そんなふうなじぶん

反省が
伸びはじめて
また
やめる

花がすきで
切り花を買ってくるひとは
ほんとうに
花が
すきなの?

未来のない花
花の死を
みたいのでしょう?

花を飾るひと
死になさい
むごたらしく
大股びらきして
そうして
何百何万の花を救う

愚行かしら?

愚行かしら?

いちじくの
ドライフルーツを噛みながら
こころは

そこも
ここも
わびしい枯野じゃないの

歯に
じゃりじゃりと
いちじくの種
ちいさな種

ほんとうに弱いものは
どこに
いるのか

わたしは複雑な電流だから
だれか
青い紅茶をいれてください

蝶々が
一羽、二羽、三羽、
花園ですもの
といって
姉は
さきに
毒をあおったのでした

嘘かしらね、それ
だれが
弱かったのかしら

ぷつぷつ
残る
つぶやき

共感がすすんでいく

ひとの
こころに
無限につながり
わたしは
わたしの外まで
痛い

どうしよう
寒い

枯れていくものが
わたしのなかに
わびしい

ざわざわと
集団のわたし
集団の外も
わたし
死ねない
魂が
死ねたら

夢みて
人間のふりを
していたり
する

よね

死ねないもの

あきらめて
きょうも
釣師に引き上げられて
ゆうがたには
活きづくり
それでも死ねない

ことばはいくつか
手持ちが
あるけれど
なにを
構成すればいいのか
わからない
だれに
むければいいのか
だれとして
音に
のせればいいのか

ああ、(とすぐにいえた頃はよかった……)
「として」

多すぎる時代

腕時計の螺子をまく
半ズボンの
ていねいなことばづかいの子も
もう
なかなか
みつからない

猫だけ永遠かしら

いつでも
ニャンとして
過去も未来も
ニャン
毛のはえた
聖書のようね

まだ
わたしは行くの?
つらい
つらい
といっているのも
つらい

結婚でも
して
しまおうか

じぶん自身への
複雑な愛人を
やめて

スリッパを
あたらしくし
玄関口を
模様替えして
さっぱりと
風ふきぬけるような
透明家族

ほうヘ
崩れようか

負けかもしれない
負けかもしれない

思うから
ことばはいくつか
手持ちがあるけれど
なにを
構成すればいいのか
わからない
だれに
むければいいのか
だれとして
音に
のせればいいのか

ああ、(とすぐにいえた頃はよかった……)
「として」

多すぎる時代

腕時計の螺子をまく
半ズボンの
ていねいなことばづかいの子も
もう
なかなか
みつからない

猫だけ永遠かしら

いつでも
ニャンとして
過去も未来も
ニャン
毛のはえた
聖書のようね

まだ
わたしは行くの?
つらい
つらい
といっているのも
つらい

結婚でも
して
しまおうか

じぶん自身への
複雑な愛人を
やめて

スリッパを
あたらしくし
玄関口を
模様替えして
さっぱりと
風ふきぬけるような
透明家族

ほうヘ
崩れようか

負けかもしれない
負けかもしれない

思うから
負けではない
のだろう

愛の問題ではなく
未来永劫
さびしさの
問題が
つづいていく
ばかり

じぶんが言い
じぶんが聞いて

くりかえす
ばかり

宇宙は
こんなにさびしくて
震えが
たましいのはじまりで
いまでも夜空の下
煙草に
火をつければ
宇宙の小さなはじまりが
くりかえされる

わたしだけ
ひとり
わたしだけ
震えて
ささえていく
虚空の森

目をつぶれば
この安寧は
どうしたことだろう

まだ
生きて
いけるか、遠い子ども
わたしなどのことは
もう
いいから
遠くに
たいせつなものが
奇跡の
うえにも
奇跡が
かさなり生まれ落ちて
育っていく
ように

希望の側へとむかおうか
希望ということばの
おそらく
エメラルド色の
影の
敷く側

わたしには未知の
土地

こんなにも
痩せ細った足で
つかれた腰で
わたしは
豊穣な荒れ野のほとりに
立つ

すばらしいことばは
前の世代たちが
語りつくし
すばらしいことばは
どれも
地に滅んだから
すばらしいことばを
わたしはいわない

わたしだけに
聞こえることばで
宇宙を
ほんのすこし
さびしくなくすことから
はじめる

からっぽな
わたしのしくみのすべて
見通したうえで
荒れ野の
枯れ木のように
まだ
かたちもとっていない希望の梁を
ささえていく

 

 

 

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