ふとん

 

塔島ひろみ

 
 

太陽がある
バス通りに沿って 5階建ての2号棟のベランダがある
数十個の 狭いベランダと 窓がある
竿があり 洗濯ばさみがあり ハンガーがある
洗濯物があり 布団がある
風に踊る
北風が強くベランダは北東に向いている
それでも 洗濯物があり 布団がある
ベランダごと 
マットとか シャツとか 布巾とか パンツとか 靴下とか 何だかわからないものとかがある
たった1本の 油じみのついたズボンだけが干されている ベランダもある
太陽があるから
太陽があるから 干されている
太陽があるから 干さなくてはいけない
洗ったものを 湿ったものを 陽に当てないといけない
太陽に誘われて披瀝された いろんなサイズ いろんな形 いろんな用途の
吊るし方もさまざまの 布製品
みんなその家の 暮らしのもの 使われたもの また使おうとされてるもの
私は 陽に干された洗濯物を見るのが好き
太陽に向かう 干された布団を見るのが好き
団地の駐輪場には自転車がぎっしり並んでいる
駅から歩いて20分 近くに自慢できる何もなく 大きな会社もなく 店もほぼなく
町工場と しょぼい畑と ありきたりの一軒家と木造アパートと 汚い空家と
年季が入った2号棟が建つそんな場所を わざわざ訪れる人はない 
このバス通りを 駅前のマンションに住む人が歩くことはない
世界中のほとんどの人が だから知らない
これら太陽に向かって光る 2号棟の洗濯物たちの眩しさを
敷地内に夏みかんの木があり 実っている
もがれないまま 鳥につつかれないまま 実っている
ベランダと塀の間のわずかなすき間に
鮮やかな黄色に たわわに 実っている
太陽があるから みかんもあった
1階の角部屋の窓が開いた
女の人が狭い狭いベランダに出 そこに干された自分より大きな布団に乗りかかるようにして 叩いている
大きな布団を 叩いている 大事だから 叩いている
太陽があるから 叩いている

 
 

(1月某日、奥戸2丁目、2号棟前で)

 

 

 

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